【アメリカの人事部】米国雇用情勢レポート(11月)
【アメリカの人事部】米国雇用情勢レポート(11月)
<様々な攪乱要因が見られた10月の雇用統計>
雇用情勢を見る上で最も注目される、米労働省発表の雇用統計(10月)は、ハリケーン・へリーン/ミルトンや、ボーイング社のストライキの影響が色濃く感じられる内容となった。雇用統計には、失業率等の算定に用いられる家計調査と、新規雇用者数や賃金などの算定に用いられる事業所調査の2つの統計からなっているが、今回特に影響が大きく出たのは事業所調査だ。これは毎月12日を含む週において、給与が支払われていない場合には、雇用関係があったとしても雇用者にカウントされないという統計上のテクニカルな要因が関係している。こうした要因により、非農業部門新規雇用者数はわずか1万2,000人増に留まり、新型コロナ期間中を除くと2019年2月以来の低水準となった。小売業や運輸・倉庫業、娯楽接客業といった幅広い分野で雇用者数の伸びがマイナスに転じた。また、ボーイング社のストライキは下流のサプライヤーにも影響し、製造業全体では4万6,000人の大幅減となった。
他方で、テクニカルな影響を殆ど受けなかった失業率に関しては、前月から0.9ポイントの小幅増に留まった。もっとも、これは失業者数の増加による押し上げ効果を労働参加率の低下が一部相殺したことが要因となっている。労働参加率の低下が、単純にハリケーン被害による一時的な要因によるものなのか、それとも求人数の減少などに影響されたものなのかは引き続き注視する必要があると考える。
ハリケーンの影響が目立った10月の雇用統計だが、11月には一定の回復を見せることが期待される。労働省が発表している失業保険給付者数は、10月前半はハリケーンの影響に伴って新規失業保険給付者数が一時的に増加したものの、第3週以降はハリケーン前の水準に低下しており、被災地における事業活動が回復するにつれて雇用が回復しつつあることが示唆されている。もっとも、ハリケーン・へリーン/ミルトンによる被害総額は数百億ドル規模に上るとされており、復旧が遅れる場合には、雇用にも影響が及ぶ可能性は残されている。
<雇用統計以外の主なる同市場関連指標の動向>
上記以外の雇用関連の指標では、9月の雇用動態調査(JOLTS)において求人数が744万人と前月から減少するとともに、製造業や娯楽・接客業、小売業など幅広い業種でレイオフも増加。第3四半期の雇用コスト指数(ECI)の伸びも前期から低下するなど、労働市場の緩やかな減速が継続していることを示す指標もいくつか見られる。また、全米小売業協会(NRF)がまとめた年末商戦における臨時雇用者数も昨年と比較して最大で11万人少なくなる可能性があるとしており、先行きについて慎重な姿勢を示している。
<まとめ及び今後の注目点>
上記のように、様々な攪乱要因のため、雇用の強さは判別しにくい状況ではあるものの、「大幅な悪化は避けつつも緩やかに減速をしている」という前月までの基調を大きく変えるものではなかったのではないかと考えられる。しかしながら、今後の雇用情勢の動向はアップサイド・ダウンサイドともになお予断を許さない。所得階層による消費のデカップリングは、企業に対する値下げ圧力を生んでおり、企業決算でも営業利益の縮小が一部の業種で見られている。こうした動きは、今後、雇用の下振れリスクにつながる可能性がある。他方、足下では、実質賃金の上昇に伴い、消費の一部で強めに推移している部分もあり、インフレ率の更なる低下に伴ってこうした傾向が続く場合には、雇用が上振れする可能性も否定できない。これに加え、大統領選の結果によっては、労働供給にも大きな変化があり得、こうした要素も今後の雇用情勢に影響を及ぼすファクターとなってきそうだ。
【執筆】
JETRO NY
ニューヨーク事務所
調査担当ディレクター
加藤 翔一 (shoichi Kato)
「プロフィール」
東北大学公共政策大学院卒。2009年、内閣府入府。
内閣府では、マクロ経済分野や地方活性化分野を中心に政策立案に携わる。マクロ経済分野では、欧州政府債務危機時に欧州経済及び世界経済の動向分析を担当したほか、一億総活躍社会の実現に向けた中長期の経済・財政の在り方のプランニング等を担当。地方活性化分野では、岸田政権の「デジタル田園都市国家構想」の立ち上げやフレームワーク設計などを担当。
2023年7月よりJETROニューヨーク事務所に出向。出国のマクロ経済、財政政策を中心に、調査・情報発信を行っている。
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