【アメリカの人事部】 全米で広がる「Pay Disclosure Requirement」法

 

 

【アメリカの人事部】全米に波及中! 単なる表面上の対応では競争力を失う“Pay Disclosure Requirement”法

アメリカでは最近、給与関連の大きなトレンドとして、通称「Pay Disclosure Requirement」というものがあります。これは、「Pay Transparency Law (給与透明性強化法)」の一環で、対象となる雇用主は社内外の求人や募集に関して、対象となるポジションの給与レンジ、つまり最低給与から最高給与までの範囲を公開する事が求められるというもので、この給与レンジの公開義務は、2023年9月からニューヨーク州で開始されており、ニューヨーク市や隣接するニュージャージー州のジャージーシティ市では2022年から、そしてカリフォルニア州においても2023年1月から導入されています。この動きは全米へと広まりつつあり、2024年にはハワイ州で、さらに2025年にはイリノイ州でこの法律が施行される予定となっています。

 

このような給与の透明性を求める動きは、労働者の権利保護や賃金の公平性を高める目的が背景にあるとされており、特に「Equal Pay Act(賃金平等法)」などと併せて、給与の公平性を確保するための措置として注目されています。そのため、各雇用主には給与制度の透明性を高め、より公平な雇用環境の実現に向けた取り組みを強化していくことが求められています。そこで、今回は給与レンジの公開に関するポイントや問題点、対策について考察します。

 

法律順守だけではなぜ不十分なのか

給与レンジの公開義務に対応するにあたり、求人や募集をする際に「最低給与から最高給与までの範囲を公表する」ことで法律に従う形を取ることが考えられますが、この給与レンジは、適切に設定できていない場合に競合企業との優位性を損なうリスクが高まります。そのため、市場の給与相場や実態といった外的要因や、組織内の人件費予算や現職従業員との兼ね合いといった内的要因を踏まえ、適切な給与レンジを定める必要があります。

 

また、給与レンジを明示することにより、面接時に応募者から「最高給与に近づくための条件や手段は?」「最高給与を得た後のキャリアパスや待遇は?」といった質問が増加することが予想されます。さらには、こういった質問は新規の応募者だけでなく、法律の対象外である現職の従業員からも寄せられることが大いに考えられます。

 

適切な対応が取られていない場合の問題点

給与透明性の動きが全米で広まりつつある中、対象となるエリアで未だに法律の存在や詳細を十分に理解していない、もしくは適切に対応していない雇用主が見受けられることもあります。特に、日系の人材会社が掲載する募集案件で、対象エリアであるにもかかわらず給与レンジが明示されていない例や、対応が単に「募集情報に給与レンジを記載する」といった簡易的なものにとどまっている場合がある点が懸念材料となっています。

 

場当たり的な対応は、優良な人材の採用が難しくなってしまうことや、現職従業員の定着率低下とモチベーションの喪失(≒生産性の低下)といった悪影響を及ぼすことが考えられます。その結果、中長期的なビジネスの健全な成長を阻害する可能性があり、適切な対応を取る重要性が強調されます。つまり、給与透明性は単に法的な要件を満たすだけでは不十分であり、これらの課題を乗り越える、またビジネスの安定した成長を目指すためには、給与透明性に対する深い理解と、それを組織の文化や戦略に組み込む取り組みが不可欠となります。

 

給与レンジの公開が義務付けられているエリア

給与レンジの公開義務があるエリアは、2023年9月の時点では次の通りとなっています。

これらのエリアに拠点を持つ雇用主には給与レンジの公開義務があり、先述のとおり、この「給与レンジの公開義務」のトレンドは全米に広まりつつあります。また、給与制度やキャリアスキームの明確化は、採用の質を高め、従業員のリテンションを向上させ、生産性の向上にも繋がると考えられます。そのため、公開が具体的に義務付けられていないエリアの雇用主も、給与制度やキャリアスキームの明確化に取り組むことで、組織の持続的な成功を支える鍵を手にすることができるでしょう。

 

組織の持続的な成功のために取るべき対応とポイント

では、具体的にどのようにしたらよいのか、組織が取るべきアプローチとして以下の要素が挙げられます。

 

1.市場の基本給相場の把握:まず初めに、Job Analysis(職務分析)を実施し、対象ポジションの役割や責任をある程度明確に定義することがポイントとなります。この分析を通じて、さまざまな制度や戦略を考える基盤ができ、さらには基本給の市場相場をより正確に把握できる大きな要素ともなるので、この分析結果を用いて基本給ベンチマーキングを行うことが一般的です。

 

2.給与レンジの定義:基本給ベンチマーキングによって入手したデータを基に、ポジションごとの給与レンジ、すなわち基本給の下限と上限を設定します。その際は、給与の市場相場といった外的要因だけでなく、組織内の人件費予算や現職従業員との兼ね合いといった内的要因を加味することがポイントです。

 

3.昇給スキームの設計:給与レンジを定めた後は、「どのようにしたら、どの程度昇給するのか」といった、昇給のメカニズムや条件を明らかにすることが求められます。評価制度を運用している組織は、評価結果との関連性を持たせることがポイントとなるかもしれません。

 

4.キャリアスキームの明確化:昇給スキームが明らかになったとして、対象となる従業員はどこかのタイミングで給与の上限に到達することになります。その際、「このポジションで最高給与に到達したら、次はどうなるの?」といった疑問や不安などを発生させないために、最高給与に達した後のキャリアの展望を示す、つまり各ポジションのキャリアパスや昇進/昇格、配置転換の際に必要なスキルや経験などの要件を明らかにすることが重要です。より効果的なプランを導き出すには、従業員の回転率/予想勤続年数のシミュレーションもしておくことがポイントとなります。また、キャリアスキームを定めるにあたり「Job Architecture」といった手法が有効になります。

 

繰り返しになりますが、こういった取り組みは新規採用者だけでなく、現職の従業員にとっても有益なものとなります。特にリテンションの向上、モチベーションの維持、そして人材の育成基盤を構築する上で極めて重要であり、ひいては従業員との信頼関係の深化や、組織全体の競争力を高める要因にも成り得ます。

 

Human Resources(HR≠人事)の重要性

アメリカの雇用法は常に変わりゆくものですが、それらの多くは従来の労務管理を整えることで順守可能となる一方で、Pay Transparency Lawなどのような法律は単なる順守の範疇を超えています。今回のPay Transparency Lawによる給与レンジの公開義務に関しては、組織の経営戦略と密接にリンクする部分があり、Job Analysis・給与レンジ/スキーム・キャリアスキームなどは、CompensationやJob Architectureも含めたHuman Resourcesの専門分野となっています。

 

また、組織戦略の中核を担うこれらの専門知識は、企業の競争力を高める上で欠かせない要素となるためHRの重要性がより強調されます。もしこれらの専門知識やリソースが社内で不足している場合は、外部専門家を活用するなどといった対応によってギャップを埋めることも優良な選択肢として挙げられます。この機会に、皆様の組織におけるHRの体制や専門性に関するリソースについて、今一度見直されみてはいかがでしょうか。

 

2023年の昇給に関する情報はコチラ⇒ 2024年の人件費予算の上昇率は4.0%、Accounting Administratorは0.9%増?!

 

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【執筆】    

 

SolutionPort, Inc.

President

Kimihiro Ogusu, SHRM-SCP、中央大学非常勤講師

Email :contact@solution-port.com  

 

【プロフィール】

全米HRマネジメント協会の上級プロフェッショナル認定資格、および医療/生命保険ライセンスを保有する、Human Resources分野のエキスパート。また、中央大学の教員としてHR関連の授業も担当中。


全米各地の日本商工会議所やJETRO、日本ではVenture Café TOKYOや大学などで講演を重ねる他、メガバンクのサイト・MUFG Bizbuddyで大好評連載中。

アメリカと日本双方の義務教育を始め、日本にあるベンチャー/上場企業、日本に本社を置く米国法人、アメリカにあるローカルの日系企業、および純米系企業や外資系大手コンサルティングファームの勤務経験があり、日米における文化の違いを熟知するバイリンガル。中央大学経済学部卒。  

 

【会社情報】

所在地:450 Lexington Ave., 4th FL., New York, NY 10017

URL:https://note.com/0__/n/nfafa1d6bb582

 

【事業内容】

HRおよび保険のコンサルティング (書面・制度の作成、研修の実施、給与・保険の調査、HRアウトソーシング、組織・働き方の見直し、労務関連ツールの提供など)  

 

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