【アメリカの人事部】リモートワークの功罪とポリシーの導入

 

 

【アメリカの人事部】リモートワークの功罪とポリシーの導入

 

パンデミックが収束して、昨年あたりから多くの企業が従業員をリモートワークから自社のオフィスに戻し始めているのは誰もが周知とする事実です。いわゆる、”Return-to-Office”ポリシーの遂行でありますが、従業員を必ずしも100%フルタイムでオフィスにすぐさま戻しているというわけではありません。やはり多くの企業では、週2日から3日程度でのオフィス出勤を義務付けるハイブリッドワークポリシー導入を進めているところが大半です。企業としては段階的にオフィスに復帰してもらうというプロセスを取っているわけですが、一方の従業員の68%はオフィスに戻るぐらいであるならば、今後ともリモートを認めてくれる転職先を見つけたいと回答しているといいます。特にZ世代(Gen-Z)と呼ばれる若い年齢層ではその割合が顕著で79%にまで跳ね上がっています。かたやフルタイムでのオフィス復帰を希望する従業員は12%しかいないという調査結果も出ています。

 

リモートワークは従業員に対して確かにワークライフバランスの向上を促し、お子さんのお世話や高齢者家族への介護に柔軟性を与えてくれ、通勤時間や通勤費削減の恩恵を享受し、毎日の服装にも気遣う必要はないというメリットが生まれていますので、リモートを今後とも望み続ける従業員が後を絶たないのは理解できます。では、それほど従業員からの熱い要望が寄せられるリモートワークに対して、一方で49%のマネジャーからは、リモートワーク従業員がオフィス勤務時と比べて明らかに孤立感やメンタルヘルス上での支障をきたしていることが観察できるというが報告もあり、リモートワークが万事に上手くいっている従業員ばかりではないということがうかがい知ることができます。(上記に出てきた数字はいずれもSHRMからの会員企業への調査値によります)

 

ではパンデミック中にリモートワークに移行していた会社は、業績などでの実態にはどのような推移が見られていたのでしょうか。以下は、US Bureau of Labor Statistic (BLS: 米国労働統計局)がはじき出した数字になりますが、2020年の従業員一人当たりの生産性は前年に比べて4.4%増、2021年が2.2%増、2022年が1.6%増ということで、ここ3年間での推移を見てみますと毎年、増加率が落ちてきていることが分かります。しかも現在アメリカでの生産性は5四半期連続で減少を辿っており、本統計調査が始まった1948年から見ても過去には一度もなかった生産性の低下が続いているというのです。どうもリモートワークで従業員の生産性が上昇していたというのは神話であって本当の話ではなかった可能性がここに来て明るみになってまいりました。

 

生産性が低下しているというのは、リモートワークをしている従業員の自宅での勤務時間が延びているということであり、長時間労働に陥っていることが分かります。長時間労働で同じであるか若干程度のプラスの生産性しか上げられていないということになりますと、時間当たりの生産性の伸び代はポジティブな数字にはつながりません。そしてもうひとつ指摘できる点として、リモートワークでは同僚同士とのコラボレーションにどうしても難が生じることがあり、それが生産性の足を引っ張っているのではないかというのです。生産性は必ずしも一人だけで作り出されるアウトプットに限定されるものでもないというわけです。これはリモートワークの生産性を語る上で今まで盲点になっていた点であるかもしれません。

 

このコラボレーションという点におきましては、スタンフォード大学で非常に興味深い実験結果が発表されています。ある問題解決の課題を全員オフィス環境で働くチームと全員リモートで働くチームとで比較してみたところ、オフィス環境チームの方がリモート環境チームより約20%多くのアイデアを出していたことが分かりました。しかもそれらオフィス環境チームから出されたアイデアは、オリジナリティの点でリモート環境チームよりも高いスコアを獲得していたというのです。では一体どうしてこのような結果に結びついたのでしょうか。それは、一般に人々は狭いコンピュータースクリーンの画面を見ながら問題解決をはかろうとすると、どうしてもその思考回路も狭くなってしまう傾向が見られるからだといいます。狭いスクリーンを通した思考だけではどうしても限界があるのもまた事実のようです。

 

実際にリモートワークからオフィスに復帰した従業員たちにその復帰後にアンケートをとってみますと、平均して72%の従業員は肯定的な感想を伝えてくれています。その中でオフィス勤務になって最も高く評価している点は、「同僚とのコラボレーションの機会が増えたこと」が挙げられていて、84%となっています。一方で、リモートワークを続けてきた従業員の87%はリモートで生産性が上がったと回答しています。このように毎回出されるアンケート調査結果によっても、生産性についてはそれぞれに言い分が違うようで、まだらも模様の状態を呈しているといわざるを得ません。ですが、政府発表の公式調査結果では、従業員の生産性は確実に劣化していることがわかりますし、フォーチュン500のCEOの40%は、このままの勤務体制を許し続けるのであれば、会社の経営状態を維持していくことはきわめて困難であると表明しています。

 

最後に、会社のポリシーについての指摘です。リモートワークまたはハイブリッドワークに対する会社のポリシーを明確に設定している企業は2022年の調査結果でになりますが、いまだ34%しかなく、48%はパンデミック時に制定した暫定的なポリシーしか持っておらず、17%はまったく何のルールも設定していないということがSHRMの調査で分かっています。今後とも緊急事態の発生などで突然リモートワークに舞い戻ることもないとはいえず、ハイブリッドワークにしても会社としてのスタンダードは何であるかの明確なガイドラインを従業員に与えることが出来なければ、地に足の着いた業務の選択をマネジメントならびに従業員自身が下すことは簡単ではありません。さらに会社としての統制を取ること自体が今後ますます難しくなってしまいかねません。最初から完璧なポリシーを作ることはどの会社であっても所詮期待することは出来ませんので、まずはたたき台としてのポリシー作りとその導入とを行ってみて、試行錯誤の中から自社に適したポリシーに仕上げていくことが強く望まれます。いつまでも空白地帯であることを放っておくことは許されません。日系企業としてのリーダーシップが試されるところでもあります。

 

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  【執筆】

    

 

Pacific Dreams, Inc.

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酒井謙吉 Ken Sakai

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【プロフィール】

信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。

   


 

 

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