【アメリカの人事部】パーパス経営における、CHROの重要性
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【アメリカの人事部】パーパス経営における、CHROの重要性
皆様ご存じのとおり、昨年五月、経済産業省が「人財版伊藤レポート2.0」（以下、「レポート」）を発表し、人的資本経営に関する課題の洗い出しと、向かうべき方向性について詳細な指針を発表しました。これは、日本のコーポレートガバナンス・コード改訂に伴う、人的資本面での実践的な対応を経済界に求めていくための動きでした。その後、八月には、「人的資本経営コンソーシアム」が産学協同で設立され、中長期的な企業価値向上のための人的資本経営戦略の策定、実践、開示を具体的に検討していく動きが進められています。
本稿では、上記のレポートにて提議されている諸点のうち、具体的な実践項目として最も肝要な、「CHROの役割の重要性」についてフォーカスして、以下ご説明します。
さて、米国では、人事部門のトップが「CHRO」というタイトルを持つことは「あたりまえ」だと、皆さん思われていることでしょう。しかし、上記レポートの策定過程で多くの日本企業の実態を分析した上で、「CHROの重要性」がことさら強調されたのには、理由があります。
それは、CHROというポジションがあっても、今までの人事部長を、昨今のCXO経営の流れを受けてCHROに変更しただけという肩書変更でしかないケースが多いという実態です。
レポートでは、企業価値向上に向けて、CHROは経営陣の一員として「経営戦略と人的資本の連動」を推進することを強調しています。ここでは、CHROの役割として、以下、五点列挙します。
§CHROの役割§
1. 成長に向けた事業戦略に寄与する人的資本戦略の策定と実行
2. 上記に関する一切の人的資本投資の判断
3. 企業のコアバリューの醸成
4. 組織戦略のチェンジマネジメント
5. 企業のパーパス共有による経営陣間（特に３C：CEO, CFO, CHRO）の連携推進
レポートによる詳細な提議の骨子を、ここでは、上記のとおり五点にまとめました。なお、これは、HBR誌(2019/5 by Malnight, Buche, Dhanaraj)発表による「パ―パス経営」推進成功のKSFの五点に基づいて、わかりやすいように私が整理したものです。
CFOがCEOと密接に連携して財務資本管理を行うのと同様に、CHROもCEOと深く連携し人的資本管理を行うことが重要だと、レポートは強調しています。そのためには、経営戦略を踏まえた人的資本戦略を実行する権限をCHROが持つことが重要です。経営トップからの一方的な指示で人事が行動するという従来からの人事部長的役割から脱却し、戦略に基づいた自発的な、真のCHROの役割をレポートは求めています。
例えば化学業界のある日本企業では、CEOが企業価値向上のために経営幹部層の改革推進を経営戦略の重要項目として明確化、経営陣はそれを共有し、CHRＯは人的資本改革戦略を実行することで、グループ業績向上に大きな成果を上げています。この企業でも、事業戦略と人的資本戦略の策定と実行の基礎となっているのは、上記５点にも記されている、「パーパス」です。
以下、「パーパス経営」について要点を記載しましょう。世界の機関投資家が参照している「グローバル・ガバナンス原則」の最新版では、企業におけるカルチャーの重要性が謳われており、従来からの「ビジョン」「ミッション」は原則の原文からなくなりました。このようなグローバルな流れに沿って、経済産業省の「人財版伊藤レポート」においても、人的資本経営の根本基盤としての「パーパス経営」の重要性が記されています。
「パーパス」とは何か？ 紙幅が限られていますので結論を簡潔にまとめましょう。
「パーパス」とは、「その企業の存在意義(WHY)」のことで、「パーパス経営」とは、パーパスを明確に核に据えて、企業戦略、財務戦略、人的資本戦略の策定と実行を行う経営のことです。
したがって、壁に掛かっていることも忘れられている額入りの社訓ではなく、広告のスローガンでもありません。再成長著しいある日本のIT企業では、成長戦略の策定と実行の前にトップがリーダーシップをとって社員とともに、その企業のパーパスを明確化したことが知られています。この会社が行った「パーパス・ディスカバリー」のプロセスはとても重要で、広告会社に丸投げしてパーパスを決めるものではありません。
また機会をいただけるようであれば、「パーパス経営」について詳しくご説明したいと思います。パーパス経営と企業価値向上の相関関係に関するシンクタンク研究や、米人幹部の「個人のパーパス」を理解して発展的で包摂的なチームを築く秘訣など、米国では、有効な人事戦略の一環として、パーパス経営に関する科学的研究が進んでいます。
パンデミック後、人材の価値観の変化の中で労働市場も激変しており、人事業務はご苦労が多いことと思います。しかし、米国事業の成長のためには、経営陣の一員として、事業経営戦略と一貫した人的資本戦略の実行を進めることはとても重要です。皆様のご活躍を祈念しまして、本稿の結びと致します。
この記事、または「パーパス・ディスカバリー」や「パーパス経営」に関するご質問などは、Virtuous Capital LLCまで、お気軽にお問い合わせください。
【執筆】
Virtuous Capital LLC
https://virtuouscap.com/
Founder & President
Hideto Nishitani（西谷 秀人）
Email：hnishitani@virtuousfund.com
拠点：Dallas Metroplex, TX
【プロフィール】
米国取締役協会認定取締役
国際コーポレートガバナンス協会（ロンドン） 人的資本委員会国際委員
The WHY Institute, Certified Coach (パーパス経営 認定コーチ)
MSc (Econ)： London School of Economics
関西学院大学 経済学部卒
（職歴）
オリックス（株）米州担当常務執行役（2019年10月退任）
米国投資銀行Houlihan Lokey Inc取締役（2020年6月退任）
東証プライム上場企業１社、東証プライム上場企業の子会社１社の独立取締役を現任中
（講演）
2022年5月30日 日本CHO協会「人的資本経営実戦へのロードマップ」
https://www.j-cho.jp/seminar/senryaku/220530/
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