【アメリカの人事部】なぜ報酬レンジ公開義務が拡大しているのか?

 

 

【アメリカの人事部】なぜ報酬レンジ公開義務が拡大しているのか?

報酬(賃金、サラリー)レンジの公開義務がコロラド州、ニューヨーク市(州は09/17/23より)、カリフォルニア州、ワシントン州等で義務化が進んでいる。特に求人広告を行う際に報酬レンジを自発的に公開することが義務づけられる州が増えている。下記の表からも現時点での各州の状況をご確認いただけると思う。

 

自発開示 有効日 対象企業 開示する内容 開示のタイミングと内容
  Maryland 10/1/2020 州内の企業 候補者が応募しているポジションのサラリーレンジ 要請があった場合
自発開示 Colorado 1/1/2021 州内の従業員1名以上の企業 時給またはサラリー、または時給またはサラリーの範囲、および提供されるすべての福利厚生およびその他の報酬の一般的な説明。 求人広告
  Connecticut 10/1/2021 州内の従業員1名以上の企業 候補者や従業員のポジションにおける賃金、サラリーレンジ 応募者の場合、応募者の要求の最も早い時期、または報酬のオファーが行われる前またはその時点。 従業員の場合、従業員が採用されたとき、ポジションが変わったとき、または最初に賃金範囲を要求したとき。
  Nevada 10/1/2021 州内の企業、人材派遣業を含む ポジション、昇進、または異動時の賃金または給与の範囲またはレート。 応募者は面接後。 従業員の場合、従業員が昇進または異動を申請した場合、面接を受けているか、昇進または異動の申し出を受けており、賃金または給与の範囲またはレートを要求した場合。
  Rhode Island 1/1/2023 州内の従業員1名以上の企業 応募者が応募しているポジションの賃金範囲 申請者の場合、要求に応じて、報酬についてオファーする前。 従業員の場合、雇用時と従業員が新しいポジションに異動したときの両方。 雇用中は、従業員が要求するたびに賃金範囲情報を提供する必要があります。
自発開示 Washington 1/1/2023 従業員15名以上の企業 賃金表または給与範囲、および提供されるすべての福利厚生およびその他の報酬の一般的な説明。 求人広告。 要求に応じて、内部の異動または昇進の場合。
自発開示 California 1/1/2023 従業員15名以上の企業 雇用主がそのポジションに支払うと合理的に期待する給与または時給の範囲 求人広告。 現在の役職の給与範囲を知りたい従業員の場合は、要求に応じて。
自発開示 New York 9/17/2023 従業員4名以上の企業 人材派遣業を含む。 報酬または報酬の範囲。 求人情報または広告。

▼下記のリンクの地図をご覧になると今後の報酬レンジ公開が検討に上がっている州も増えていることが分かる。

https://www.americanprogress.org/article/quick-facts-about-state-salary-range-transparency-laws/

 

更に、下記のリンクをご覧になるとIT業界にフォーカスしているものの、カリフォルニア州とニューヨーク市の報酬レンジ公開義務遵守率(求人広告をベースに遵守率を計算しているようだ)が分かり、ニューヨーク市では約70%遵守率、カリフォルニア州では約58%の遵守率であることが分かる。

https://www.comprehensive.io/

 

報酬レンジ公開が義務づけられる理由

 

1963 年のEqual Pay Act(同一賃金法)は公正労働基準法(Fair Labor Standard Act=FLSA)の修正であり、雇用主が「同等のスキル、努力、および責任を必要とする仕事での同等の仕事に対して、一方の性別に他方よりも多く支払う」ことによって男性と女性を差別することを禁じている。

現在拡大している報酬レンジの公開はこの同一賃金法が拡大しているためである。カリフォルニア州で採用活動中に応募者の過去の報酬履歴を質問してはいけないという法律もこの流れで拡大している。

 

▼下記のリンクでは過去の報酬履歴質問禁止の法律が成立している州について解説されている。

https://www.rdive.com/news/salary-history-ban-states-list/516662/#:~:text=California's%20ban%20prohibits%20private%20and,determining%20a%20new%20hire's%20pay.

 

一方、Department of Laborによると2023年の発表では女性の賃金は男性の賃金の83.7%であるとされている。つまり女性の賃金は男性よりも16.3%低いということだ。

https://www.dol.gov/newsroom/releases/osec/osec20230314

現在賃金の男女格差がある中で、過去の報酬を元に新しいポジションの報酬を決めるといつまで経っても男女の格差は縮まらないという考えの元、過去の報酬履歴の質問は禁止されてきているわけである。

 

連邦EEOCやカリフォルニア州では従業員100名以上の企業は年に1度報酬情報のレポートが要請されている。(カリフォルニア州のPay Data Reportingについては2023年は5/1/23 が締め切りである。)

 

またその結果についても下記のリンクから発表されている。カリフォルニア州でも男女、や人種によって報酬の格差があることが読みとれる。

https://calcivilrights.ca.gov/paydatareporting/results/

 

このような格差を解消するため、法律が報酬の開示を進める背景が少しお分かりいただけたかと思う。

更に踏み込んで考えると、ポジションごとに報酬レンジを開示するということは、ポジションごとに報酬レンジを設計することになる。そこで、ポジションの定義が明確である必要があり、自ずとジョブディスクリプションを作成し仕事内容に合わせた報酬レンジの設計が必要になる。

日本ではジョブ型雇用の導入が叫ばれてきているが、アメリカのジョブ型雇用の最も大きな理由はこの「差別を無くすため」にという背景があることを知っておくと理解がしやすいだろう。

 

日本語には昇格という言葉と昇進という言葉がある

日本語には昇格という言葉と昇進という言葉がある。

これは日本の人事システムに資格が上がる昇格という仕組みとポジションが上がる昇進という仕組みがあるということだ。

例えば、日本では営業の職場で仕事は3月末と4月1日で何も変わらないのに資格が主任から主査に昇格したので、月額サラリーが5,000円上がる、といったことが起こる。

これは、日本の人事は基本的に人をベースに報酬が決まり、その人が能力の階段を登っていくと報酬が上がるという仕組みになっていることを示している。

 

しかし、アメリカでは仕事をベースに報酬が決まり、役割の大きな、あるいは高度な別のポジションに就くことで報酬が上がる。

アメリカでは報酬が仕事をベースに決められず、人によって決まると「人種、民族、性別、年齢、障害有無等」により差別になってしまう可能性が高まる。

従って、アメリカでは仕事をベースに報酬を決める方式が行われている。

 

日米の違いを理解すると報酬レンジ公開の法律に対応する意味がよりお分かりいただけると思う。

 

この記事に関してご質問は、Philosophy LLC まで、お気軽にお問い合わせください。

 


 
【執筆】
 
 
Philosophy LLC
President
山口 憲和   (Norikazu Yamaguchi)
Email:yamaguchi@yourphilosophy.net  
 
 
【プロフィール】
MBA, SHRM-SCP
CA Insurance License: 0F78137
日本キャッシュフローコーチ協会認定コーチ 会員番号463
 
 
群馬県高崎市出身
2000年より米国型人事コンサルティングを行う。
2004年からロサンゼルスに拠点を移し、日系企業を中心に500社以上のコンサルティングを経験。米国人事に欠かせない保険のライセンスも取得し米国人事のサポートを行っている。
また、米国人事プロフェッショナルとしての資格 SHRM-SCP=SHRM(Society for Human Resource Management=米国人材マネジメント協会)Senior Certified Professionalを取得。  
 
 
(学歴 )
群馬県立高崎高等学校卒業
東京外国語大学 外国語学部 
中国語学科卒業 中国 復旦大学 国際文化交流学院修了
慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科 修士課程修了(MBA)  
 
 
(職歴)
全日本空輸株式会社(ANA)、Mercer Human Resource Consulting等を経て現職  
 
 
(共著書)
A&R優秀人材の囲い込み戦略A&R優秀人材の囲い込み戦略  
 
 
 
【会社情報】
Philosophy LLC
Philosophy Insurance Services
所在地:609 Deep Valley Drive, WEST TOWER Suite 358
Rolling Hills Estates, CA 90274  
URL:philosophyllc.com/
TEL  310-465-9173  
 
 
【事業内容】
日系企業向け人事コンサルティング・保険代理店業務  
 
 
免責事項:山口憲和は、この記事の中で正確で常識的、倫理的な人事管理、雇用者、職場、保険情報等を提供するために万全を期していますが、山口憲和は弁護士ではなく、この記事の内容は 法的助言として解釈できません。 不確かな場合は、常に弁護士に相談してください。 この電子記事上の情報は、ガイダンスのためだけに提供されており、決して法的助言として提供されるものではありません。この情報を利用して損害が生じた場合でも弊社では責任を負いかねますのでご了承下さい。  
 
 
Disclaimer: Please note that Norikazu Yamaguchi makes every effort to offer accurate, common-sense, ethical Human Resources management, employer, workplace, and Insurance information on this article, but Norikazu Yamaguchi is not an attorney, and the content on this article is not to be construed as legal advice.  When in doubt, always seek legal counsel. The information in the email is provided for guidance only, never as legal advice. We will not be responsible for any damages caused by using this information.    
 

 

●「アメリカの人事部」ニュースレターのお申込み

クイックUSAは「アメリカの人事部」を発足し、在米日系企業様向けにニュースレターを配信させていただいております。アメリカでビジネスを遂行していくために、必ず知っておかなければならない法律、人事・労務、ビザなどの最新ニュースを定期的にお届けしております。

 

「アメリカの人事部」のニュースレターをご希望の企業様は、下記までお気軽にお申し付けください。   「アメリカの人事部」のニュースレターお申込みご希望の方はお手数ですが、会社名、ご担当者様氏名、役職、電話番号、会社のご住所、E-mailアドレスを明記の上、下記E-mailアドレスまでご連絡くださいますようお願いいたします。 

 

E-mail:info-usjinjibu@919usa.com  

 

     

 

「アメリカの人事部ニュースレター」のバックナンバーをご希望の方は、

E-mail:info-usjinjibu@919usa.com まで、 ご希望のナンバーをお気軽にお知らせください。  

 

 


 

【アメリカでのご採用をご検討中の企業様へ】

 

★採用でお困りなことはありませんか?

クイックUSAでは、アメリカでのご採用のお手伝いをしています。

フルタイム、パートタイム、派遣等、御社のご採用のお手伝いをさせていただきます。

お気軽に下記までご連絡ください。  

 


 

●人事・労務関連のご相談にも応じております。

クイックUSAではハンドブックの作成・見直し、ジョブディスクリプションの作成、セクハラ防止セミナーの開催など、 人事労務関連のご相談も承っております。内容、お見積りなど何でもお気軽に下記までご相談ください。  

 

QUICK USA, Inc.

 

[ Dallas Office ]
5851 Legacy Circle, Suite 600, TX 75024
Phone: 469-626-5265
[ Irvine Office ] 
18575 Jamboree Rd, #6, Irvine, CA 92612
Phone: 310-722-3813

 


 

【アメリカでのご転職・就職をお考えの方へ】

 

アメリカでのお仕事探し、就職・転職はクイックUSAにお任せください。

弊社のサービスにご登録がお済みでない方は、まずは英文履歴書のご登録をお願いいたします。

www.919usa.comより、オンライン登録をしていただくか、

quick@919usa.comまでE-mailにて英文履歴書を添付ファイルにてお送りください。

折り返しご連絡させていただきます。  

 

※クイックUSAではニューヨークとロサンゼルスを拠点に全米で、留学生や社会人の求職者に対してアメリカでの就職・転職のお手伝いをしています。ご紹介しているお仕事は、金融、会計、IT、輸出入、人事、営業など多岐に渡ります。  

 

雇用形態はお仕事をお探しの方のライフスタイルに合わせて、 フルタイムのお仕事とテンポラリーのポジションをご紹介。 クイックUSAでは経験豊富なリクルーターが、求職者の皆様一人ひとりのご希望などを伺いアメリカでのキャリアプランを一緒に考えさせていただいています。 アメリカでお仕事をお探しであれば、アメリカ求人多数のクイックUSAに是非ご登録ください!(無料)  

 


 

★★クイックUSAにレジュメのご登録がまだの方は、今すぐご登録ください!★★

 

 

 

クイックUSAでは、ご登録者の方に対して無料のキャリアカウンセリングを実施しています。
★★Emailにてレジュメを送るだけで登録完了のエクスプレス登録もご利用いただけます!★★

         

アメリカで現在お仕事をされている方、OPTや学生の方など、現在アメリカに住んでいらっしゃる方へ
アメリカでのご転職・就職で何かご質問がございましたら下記よりご連絡ください。

 

 


 

    

 
クイックUSAでは、LinkedinLINE、InstagramFacebookTwitterでも情報発信をしています。是非、フォローお願いします。