【アメリカの人事部】給与開示透明性(Pay Transparency)はなぜ法令化されたのか?

 

 

 

 

 

【アメリカの人事部】給与開示透明性(Pay Transparency)はなぜ法令化されたのか?

 

皆様すでにご存知である方も多いと察しますが、今年および来年と表題に掲げました、給与開示透明法(Pay Transparency Act)がNY市、CA州、WA州、CO州などですでに施行あるいは来年1月1日からの施行の運びとなります。この法律は企業が求人募集をかけるために求人広告をジョブポスティングのウェブサイトに掲載したりリクルーターに依頼を出したりする際に、給与レンジの開示を企業に義務付けるというものです。ここでいう給与レンジというのは、該当するポジションの最低給与額と最大給与額を意味するもので、求職者はそのレンジを予め知ることができることになります。

 

さらに本法は、現在企業で働いている従業員からのリクエストがあれば、当該ポジションの給与レンジをやはり開示しなければならない義務を負うこととなります。社内だけでのポジションの公募に関しても同様に開示が要求されることになります。また、その給与レンジは少なくともそのポジションの募集が行われてから3年間は記録として残しておかなければならないとされます。それでは、いったいどうしてこのような法律がいくつかの州で施行となるのか、その理由がお分かりになりますでしょうか。これだけを聞いただけでは恐らく多くの皆様、とりわけ企業の管理側につく方々にとっては釈然としない、落ち着かない気持ちを抱くことになるのではないでしょうか。

 

NY市では今年の5月に本法の施行が予定されていたのですが、当初反対意見が予期せぬほど多かったため6ヶ月の延期を余儀なくされ、この11月からの施行となりました。その反対意見というのは、募集をかける際に給与レンジを開示したのならスモールビジネスやスタートアップ企業は大手一流企業やエスタブリッシュされた老舗企業との給与レンジの乖離が白日のもとにさらされることになり、中小企業の多くはさらに求人募集をする上で不利な状況をいやがうえにも強いられることになるという理由からのものでした。確かに給与調査を行ってみても大企業であればあるほど、給与レンジは高くなる傾向にあることは衆目の一致するところとなりますので、この反対理由はまっとうで理解しうるものだと申し上げられます。

 

しかしそれでも6ヶ月の延長期間を経て施行に移されたのは、反対理由以上の別の正当な理由があったからではないかと考えられます。その正当な理由とは、給与レンジを開示することによって、そこに性別や人種、肌の色、年齢、出身国、宗教、障害などによる差別的な差異を設けることを抑制することが出来るという考え方に基づいているということがいえるからだと思います。そういった給与レンジにおける差別的差異を解消させる方向に企業を向かわせることによって、企業内における多様性(ダイバーシティ)を推進させる効果が期待できるというわけです。では、企業の多様性を推進させることが企業にとってはたしてプラスになることなのでしょうか。

 

多くのデータからは、企業の多様性の推進はほぼ一貫して企業の生産性や売上、そして収益に貢献していることが分かっています。そして何よりもいままで陽の当らない場所でしか働く機会を得ることが出来なかった”Under-Represented Populations”と呼ばれる様々な領域におけるマイノリティなタイプの人々に対して、より公正な就業の機会を提供することが出来るようになるというわけです。これは恐らく、本法におけるもっとも期待がもてる効用のひとつに数えられるものだと考えられます。もはや給与開示透明法は、企業の多様性推進に関して「待ったなし」を突きつけるストレートボールな法律なのではないかと申し上げることが出来ます。

 

 

 

※この記事に関してのご質問は、Pacific Dreams, Inc.まで、お気軽にお問い合わせください。  

 

 


 

  【執筆】

    

 

Pacific Dreams, Inc.

President & CEO

酒井謙吉 Ken Sakai

8532 SW St Helens Dr. Wilsonville, OR 97070

www.pacificdreams.org

Email : kenfsakai@pacificdreams.org

Phone: 503-783-1390  

 

【プロフィール】

信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。

   


 

●「アメリカの人事部」ニュースレターのお申込み

クイックUSAは「アメリカの人事部」を発足し、在米日系企業様向けにニュースレターを配信させていただいております。アメリカでビジネスを遂行していくために、必ず知っておかなければならない法律、人事・労務、ビザなどの最新ニュースを定期的にお届けしております。

 

「アメリカの人事部」のニュースレターをご希望の企業様は、下記までお気軽にお申し付けください。   「アメリカの人事部」のニュースレターお申込みご希望の方はお手数ですが、会社名、ご担当者様氏名、役職、電話番号、会社のご住所、E-mailアドレスを明記の上、下記E-mailアドレスまでご連絡くださいますようお願いいたします。 

 

E-mail:info-usjinjibu@919usa.com  

 

     

 

「アメリカの人事部ニュースレター」のバックナンバーをご希望の方は、

E-mail:info-usjinjibu@919usa.com まで、 ご希望のナンバーをお気軽にお知らせください。  

 

【バックナンバー】  

No.1 日本の人事について、トランプ政権発足以降のビザ取得の状況

No.2 人事が知っておくべき高額医療/消費者保護法(CCPA)施行/感染症対策

No.3 コロナウィルス拡大で米国CDCも推奨「在宅勤務」について/シックリーブ

No.4 在宅勤務特集/在宅勤務に関するQ&A

No.5 コロナウイルスに関するQ&A/WiFiの規定/より快適な在宅勤務のコツ

No.6 CDC雇用者向けページを確認しよう/After COVID-19の訴訟について

No.7 ポスト・コロナの職場環境/ビザ取得の状況/WEB面接のコツ

No.8 出社への不安という理由/職場再開における適正な準備と手順

No.9    Return to Workのポリシーを作ろう/オフォス再開に関する一問一答

No.10  コロナ禍で考える「評価制度の構築」/ Don’t be silent ~アメリカの人事は差別との闘いであるから

No.11 移民法、雇用調整助成金(ERC)最新情報

No.12 失業保険の不正受給が急増/評価制度Q&A

No.13 職場におけるコロナ関連訴訟/ オフィス対策/ 感染テスト

No.14  ジョブ型?メンバーシップ型?/自主隔離を終了させる新たなガイドライン

No.15  CA州無給休暇と収入保障/強い企業になる!ブラックスワン比較とは

No.16 ポストコロナの新入社員研修/最新移民法/リモート採用注意点/失業率の推移、学校再開Q&A

No.17 訴訟が多いワースト10/コーチングの活用目的

No.18 緊急有給シックリーブ法の改定/リモートでのコミュニケーション

No.19 各州の雇用に必要な給与額/従業員が感染!会社としての対策とは

No.20 2021年は2.6%昇給すべきか?!/採用もマーケティングと同じ

No.21 バイデン新政権誕生で変わる今後の雇用情勢/H1b申請新基準

No.22 企業が提供する祝日と割合/オンラインホリディパーティゲーム9選

No.23 医療費は上がり続けるのか?

No.24 2021年有給シックリーブ法/何はなくともブランディング

No.25 グラフで振り返る2020年/新世代のコミュニケーションCPaaSとは

No.26 ワクチン接種を強制しますか?/H-1Bビザ抽選プロセスの変更案について

No.27 大統領令と法律の違い/医療費控除を最大に/州政府の仕事を請け負うには

No.28 従業員ベネフィットのトレンド/COVID後のオフィスデザイントレンド

No.29  COVID-19救済法と人事関連情報/コミュニケーションは進化する/音声メディアを考えてみる

No.30  2021年ハンドブック更新の拠り所/まだ間に合う!節税のためのIRA/クラウドサービス利用の秘訣

No.31 大麻使用許可による職場規定とドラッグテストの影響/永遠に勝てる組織を作るには

No.32  あなたの給料はAIが決めてもよいか?/駐在員が絶対に知らないといけない個人税務知識

No.33  アメリカの失業保険制度と給付金/最近のアメリカ移民法事情/日本帰国のポイント  

No.34  リモートワークでの雇用と離職について/短期の離職を抑えるためにできること/音声メディアを考えてみる Part:2

No.35  CA州はマスクを外せないのか?/ここだけは押さえておきたいIRS

No.36  新法HERO Act法とは?/「小さな物語」が組織を変える

No.37  学生スポーツのビジネス化/ リモート、ハイブリッドでの新人教育

No.38  なぜ過去の給与履歴を質問してはいけないのか?/ オンラインビジネスの主な形態  

No.39  来るべき人材採用難と従業員の離職対策/ 新しい「働く」をデザイン-オフィス再開に向けて-/ 「日本型」ジョブ型雇用が抱える課題 

No.40  出張の回復は2024年/ 予定納税ってなに?自分には関係ある? 

No.41  日本にあってアメリカにないものは?/変化の時代ころ「パーパス」について語り合う

No.42  リモートワーク下での人事評価/ 駐在者へのトレーニング

No.43  2019年からの求人数・雇用数の推移/駐在員のジレンマ~相手の価値観と自分の価値観~/米国大使館のEビザ申請の現状

No.44  2022年のSalaryトレンド。インフレ+人手不足で昇給率は更に上がるか?/コロナ後の新しい雇用のカタチ/アメリカ進出!BtoBマーケティングの基本となる8つのポイント

No.45  ワクチン接種を拒む従業員への対応/昇給・給与設定にありがちな問題!~問題を回避する秘訣とは?!~/クラウド時代のネットワークを実現するSecure Access Service Edge(サシー)

No.46 雇用者数の推移と、重要な数値/GILTI(米国外軽課税無形資産所得)とFDII(外国稼得無形資産所得)

No.47  2022年カリフォルニア州の人事関連 新しい法律

No.48  コロナ禍によるパワーシフト | その会議に心理的安全性はありますか?

No.49  各州での最低賃金の上昇 | 日系企業の意識改革の試み

No.50  評価制度を止めた企業はどうなったか? | H-1B、E、Lビザ配偶者の就労許可について

No.51  2022年は日系企業のDEI元年| 個人の確定申告で注意すべき4つのポイント

No.52  健康保険加入でCOVID-19の自宅検査キットが無料に | 人材難が続くアメリカのGreat Resignation~いま何が起こっているのか~

No.53  2022年アメリカの物価上昇と昇給への影響は? | あなたは、どのように組織に「社会化」していますか?

No.54  複雑化し、高度化するアメリカHR  | リモートワークと企業文化の維持~アポロ宇宙船基地のトイレ清掃員の目的意識と通ずるところ

No.55  COVID-19以降のキャリアとライフスタイル | アフターコロナ新たな課題~人材採用で一役買うかもしれない新たなサービス~

No.56 【報酬】募集広告にサラリーレンジの開示義務(アメリカ流ジョブ型雇用義務化の流れ) | 日米税務当局間の金融口座に関する情報交換

No.57  DEIのEを知る | 職場で気を付けたい年齢発言

No.58  幅広いメンタルヘルスのベネフィット | 1on1で対話をすると組織の何が変わるのか? ~4ヶ月で起こせる変化~ | カナダ、メキシコ国籍保有者がアメリカ就労を可能にする専門職ビザ ”TNビザ”とは

No.59 リモートワークは是が非か? | アメリカの安全な都市。テキサス州のフリスコ市とマッキーニ市が1位2位!

No.60  Exempt 従業員は時間管理が出来るのか? | 「急がば回れ」が機能するとき

No.61 7月1日からStandard Mileage Rateが変更 | サイバーセキュリティリスクへの法的対応~事前準備の重要性~

No.62 ジョニー・デップとアンバー・ハードの裁判からHRは何を学ぶか? | 大量退職時代を乗り越えるために知っておくべき総報酬(Total Reward)の基本

No.63 COVID-19 に感染した従業員に対するアップデート | 人事訴訟と米国の差別解消への動き 

No.64 夢遊病とAmericans with Disability Act(ADA: 障がいを持つアメリカ人法)|  「リタイヤ前にやるべきだった・・・」後悔トップ10<日米比較>

No.65 カリフォルニア州 Paid Family Leave利用した従業員一人につき最大$2,000の給付金 | E-1 VISAの申請方法の説明

No.66 セクハラ防止トレーニングは継続しなければならない | なぜ、あなたは部下の話が聞けないのか?

No.67 NFLチームでのハラスメントとハラスメント防止規定 |  大量退職時代に従業員を惹きつける401(k)プラン

No.68  HRを仕事にしたら給与はいくらか? | リモートワークの見直しを契機に!ADA上の「配慮」と米国労務管理の「基本書類」| 教育水準も高いテキサス州!全米ベスト学校区100に5学校区がランクイン!

No.69 州をまたいで働く完全リモート従業員への対応 | 会社内のパワーシフト:リスク管理として今からやっておかなければならないこと

No.70 NBAチームでの差別・ハラスメントに対して、1,000万ドルの罰金は正当か | 日本の居住者認定―米国永住権者

No.71 2023年の昇給率はいくらにすべきか? | 「生きて」いる人と出会うには

 

 

 

 


 

【アメリカでのご採用をご検討中の企業様へ】

 

★採用でお困りなことはありませんか?

クイックUSAでは、アメリカでのご採用のお手伝いをしています。

フルタイム、パートタイム、派遣等、御社のご採用のお手伝いをさせていただきます。

お気軽に下記までご連絡ください。  

 


 

●人事・労務関連のご相談にも応じております。

クイックUSAではハンドブックの作成・見直し、ジョブディスクリプションの作成、セクハラ防止セミナーの開催など、 人事労務関連のご相談も承っております。内容、お見積りなど何でもお気軽に下記までご相談ください。  

 

QUICK USA, Inc.

 

[New York Office ](Headquarters)

8 West 38th Street, Suite 802, New York, NY 10018

Email:quick@919usa.com

Phone: 212-692-0850  

 

[Los Angeles Office ]

1995 W.190th Street, Suite 200 Torrance, CA 90504

Email:quickla@919usa.com

Phone: 310-323-9190  

 

[Dallas Office ] 

5851 Legacy Circle, Suite 600, Plano, TX 75024 

Email:quicktx@919usa.com

Phone: 469-626-5265 

 

 

[Chicago Office ] 
 
2022年12月1日開設
 
1600 Golf Road, Suite 1200, Rolling Meadows, IL 60008
 
 
Phone: 646-796-6393

 

 


 

【アメリカでのご転職・就職をお考えの方へ】

 

アメリカでのお仕事探し、就職・転職はクイックUSAにお任せください。

弊社のサービスにご登録がお済みでない方は、まずは英文履歴書のご登録をお願いいたします。

www.919usa.comより、オンライン登録をしていただくか、

quick@919usa.comまでE-mailにて英文履歴書を添付ファイルにてお送りください。

折り返しご連絡させていただきます。  

 

※クイックUSAではニューヨークとロサンゼルスを拠点に全米で、留学生や社会人の求職者に対してアメリカでの就職・転職のお手伝いをしています。ご紹介しているお仕事は、金融、会計、IT、輸出入、人事、営業など多岐に渡ります。  

 

雇用形態はお仕事をお探しの方のライフスタイルに合わせて、 フルタイムのお仕事とテンポラリーのポジションをご紹介。 クイックUSAでは経験豊富なリクルーターが、求職者の皆様一人ひとりのご希望などを伺いアメリカでのキャリアプランを一緒に考えさせていただいています。 アメリカでお仕事をお探しであれば、アメリカ求人多数のクイックUSAに是非ご登録ください!(無料)  

 


 

★★クイックUSAにレジュメのご登録がまだの方は、今すぐご登録ください!★★

 

 

 

クイックUSAでは、ご登録者の方に対して無料のキャリアカウンセリングを実施しています。
★★Emailにてレジュメを送るだけで登録完了のエクスプレス登録もご利用いただけます!★★

         

 

 

アメリカで現在お仕事をされている方、OPTや学生の方など、現在アメリカに住んでいらっしゃる方へ
アメリカでのご転職・就職で何かご質問がございましたら下記よりご連絡ください。

 

 

   


 

[New York Office ](Headquarters)

8 West 38th Street, Suite 802, New York, NY 10018

Email:quick@919usa.com

Phone: 212-692-0850  

 

[Los Angeles Office ]

1995 W.190th Street, Suite 200 Torrance, CA 90504

Email:quickla@919usa.com

Phone: 310-323-9190  

 

[Dallas Office ] 

5851 Legacy Circle, Suite, TX 75024

Email:quicktx@919usa.com

Phone: 469-626-5265 

 

 

[Chicago Office ] 
 
2022年12月1日開設
 
1600 Golf Road, Suite 1200, Rolling Meadows, IL 60008
 
 
Phone: 646-796-6393
 

 


 

    

 
クイックUSAでは、LinkedinLINE、InstagramFacebookTwitterでも情報発信をしています。是非、フォローお願いします。