【アメリカの人事部】州をまたいで働く完全リモート従業員への対応

 

 

 

 

 

州をまたいで働く完全リモート従業員への対応

 

コロナ禍を契機としてアメリカをはじめ世界中にある多くの企業でリモートワークが新しく導入され、コロナ禍がほぼ収束した現在に至っても依然リモートワークはニューノーマルとして従業員の働き方にすっかり定着した感が見受けられます。日系企業様での採用面接の中でも、先日も応募者の方からほぼ毎回のようにリモートワークのオプションはありますかという質問を受けると日本人採用マネージャーの方は苦笑いされていました。コロナ禍のロックダウンなどの措置に際してはいやおうなしにリモートに移行していた企業の多くは現在オフィス勤務に戻しているところだと思いますが、それでも完全にオフィス勤務に戻すことはいまだ難しいところがあり、現実的にはオフィス勤務とリモートの折衷型、つまりハイブリッドワークを認めているところが大方の模様です。

 

どこの企業も既存従業員からの離職率の高さとアフターコロナの業務回復期にあって、人員の増強を図りたいのは積の山なのですが、募集をかけても応募者さえも集まらないというため息交じりのお話を日系企業様からは耳にします。業種や業務によっては、リモートで働いてもらえるという選択肢もなく、現場に出ることが要求されるポジションであるほど、求人を埋めるのに大変なご苦労をなされておいでです。逆に職探しをしている応募者の方はリモートで働ける企業や職種を求めて他州にある応募者から見れば遠隔地に位置する企業にも自身のレジメを送りつけてまいります。100%リモートでも働くことの出来る職種やポジションであれば、住んでいる場所を問わないことになりますから、千載一遇の巡り合わせということも可能性として出てはきますが、現実問題としては制度面でいうとかなりハードルが高いということが申し上げられます。

 

応募者が住む地域が会社の位置する地域から遠く離れているということは、まず州をまたいでいるということが出てまいります。そうなりますと、そこで州が異なることによって、管轄を受ける州の法律体系や徴収する税金体系も異なってくるということになります。つまり、法律や税金は会社オフィスが所在する州ではなく、他州に住む従業員は、その従業員が住む州の体系に従わなければならないというのが原則ルールとなります。これは会社にとってはコンプライアンス上、大きなしわ寄せがそこに発生することになります。国土の広いアメリカは地域によって分断されてきた歴史があります。最近は特に二大政党による政治的な国の分断が特にその亀裂を際立たせています。そうなりますと、連邦法というアメリカ全土で適用される法律はあっても、各州ごとに制定された50州それぞれの異なる州法によって現実的に各州は統治されていることになります。

 

たとえば保守的なテキサス州に本社を構える日系企業があった場合、リモートで働く従業員がカリフォルニア州やニューヨーク州に住んでいたら、それらリモート従業員はテキサス州の法律ではなく、カリフォルニア州あるいはニューヨーク州の法律に準拠した雇用でなければならないということになります。その場合、カリフォルニア州やニューヨーク州にはテキサス州にはない、従業員保護のための多くの法律が制定されています。テキサス州だけを考えればそのような法律への配慮をする必要などはとりわけないのですが、カリフォルニア州やニューヨーク州に住んで、そこで仕事をしている従業員にはテキサスの法律の適用だけでは大きな不都合や不公正、さらにコンプライアンス上での問題が出てくることになります。

 

あえて理想を申し上げるのであれば、カリフォルニア州やニューヨーク州に住んでリモートで仕事をする従業員がいる場合、その人たちのためのその州の法律を網羅した従業員ハンドブックを作って手渡しておくことが模範になります。ですが、各州一人二人しかいないリモート従業員のためにそこまでする必要が本当にあるのだろうかということになりますと、確かに考えてしまうところがあります。コロナ前まではこのようなリモートワークをする従業員が他州にいて、その対応をどうしたらよいかというようなご相談を受けることはほぼ皆無でした。ところが今日ではそのようなご相談は日常的にお受けするようになりました。さらにコロナ禍を機にしてあえて感染拡大をしている都市部から他州の田園地帯に移り住んで、リモートで働く従業員もそこそこ出てきているわけです。

 

他州に住んでいてそこでリモートワークをする一人の従業員のためにその州に合わせた新たなハンドブックを作るべきかどうか、確かに非常に悩ましい課題だと思います。ですが弊社の日系企業様の中には支店オフィスおよびリモートワークをする従業員が全米で8つの州にまたがっているクライアント企業様がいらっしゃいまして、そのクライアント様は8つの州の法律に適合するために8つの異なる各州独自のハンドドックを弊社にご依頼され、作られたというケースがございました。さらにその後も全8州のハンドブックすべての見直しも定期的になされておいでで、弊社でご対応を続けさせていただいております。その結果、どのような違いが出てきたかと申しますと、各州ごとの法律に見合ったハンドブックとなっておりますので、各州で働くリモートを含む従業員からの会社に対する満足度や納得度が改善され、会社への苦情やクレームが大幅に減ったことが分かりました。

 

確かに8つの異なる州に準拠する8つの異なるハンドブックを作るのは大変な労力と時間とを要しますが、そのリターンは確実にあるものだと申し上げられます。各州の法律はコロナ禍を通じてますます従業員側の立場を際立たせた従業員寄りの法律に舵を切っていることが分かります。つまり、州独自にもっている特徴を法律で具現化しようという姿勢が明確に打ち出されています。そうなりますと、他州で働く従業員を抱える企業は好むと好まざるとにかかわらず、他州で働く一人のリモート従業員のためにハンドブックの作成や見直しから対応していく必要性が今後ますます課せられていくことが予見されるところだと申し上げられる次第であります。

 

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  【執筆】

    

 

Pacific Dreams, Inc.

President & CEO

酒井謙吉 Ken Sakai

8532 SW St Helens Dr. Wilsonville, OR 97070

www.pacificdreams.org

Email : kenfsakai@pacificdreams.org

Phone: 503-783-1390  

 

【プロフィール】

信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。

   


 

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No.1 日本の人事について、トランプ政権発足以降のビザ取得の状況

No.2 人事が知っておくべき高額医療/消費者保護法(CCPA)施行/感染症対策

No.3 コロナウィルス拡大で米国CDCも推奨「在宅勤務」について/シックリーブ

No.4 在宅勤務特集/在宅勤務に関するQ&A

No.5 コロナウイルスに関するQ&A/WiFiの規定/より快適な在宅勤務のコツ

No.6 CDC雇用者向けページを確認しよう/After COVID-19の訴訟について

No.7 ポスト・コロナの職場環境/ビザ取得の状況/WEB面接のコツ

No.8 出社への不安という理由/職場再開における適正な準備と手順

No.9    Return to Workのポリシーを作ろう/オフォス再開に関する一問一答

No.10  コロナ禍で考える「評価制度の構築」/ Don’t be silent ~アメリカの人事は差別との闘いであるから

No.11 移民法、雇用調整助成金(ERC)最新情報

No.12 失業保険の不正受給が急増/評価制度Q&A

No.13 職場におけるコロナ関連訴訟/ オフィス対策/ 感染テスト

No.14  ジョブ型?メンバーシップ型?/自主隔離を終了させる新たなガイドライン

No.15  CA州無給休暇と収入保障/強い企業になる!ブラックスワン比較とは

No.16 ポストコロナの新入社員研修/最新移民法/リモート採用注意点/失業率の推移、学校再開Q&A

No.17 訴訟が多いワースト10/コーチングの活用目的

No.18 緊急有給シックリーブ法の改定/リモートでのコミュニケーション

No.19 各州の雇用に必要な給与額/従業員が感染!会社としての対策とは

No.20 2021年は2.6%昇給すべきか?!/採用もマーケティングと同じ

No.21 バイデン新政権誕生で変わる今後の雇用情勢/H1b申請新基準

No.22 企業が提供する祝日と割合/オンラインホリディパーティゲーム9選

No.23 医療費は上がり続けるのか?

No.24 2021年有給シックリーブ法/何はなくともブランディング

No.25 グラフで振り返る2020年/新世代のコミュニケーションCPaaSとは

No.26 ワクチン接種を強制しますか?/H-1Bビザ抽選プロセスの変更案について

No.27 大統領令と法律の違い/医療費控除を最大に/州政府の仕事を請け負うには

No.28 従業員ベネフィットのトレンド/COVID後のオフィスデザイントレンド

No.29  COVID-19救済法と人事関連情報/コミュニケーションは進化する/音声メディアを考えてみる

No.30  2021年ハンドブック更新の拠り所/まだ間に合う!節税のためのIRA/クラウドサービス利用の秘訣

No.31 大麻使用許可による職場規定とドラッグテストの影響/永遠に勝てる組織を作るには

No.32  あなたの給料はAIが決めてもよいか?/駐在員が絶対に知らないといけない個人税務知識

No.33  アメリカの失業保険制度と給付金/最近のアメリカ移民法事情/日本帰国のポイント  

No.34  リモートワークでの雇用と離職について/短期の離職を抑えるためにできること/音声メディアを考えてみる Part:2

No.35  CA州はマスクを外せないのか?/ここだけは押さえておきたいIRS

No.36  新法HERO Act法とは?/「小さな物語」が組織を変える

No.37  学生スポーツのビジネス化/ リモート、ハイブリッドでの新人教育

No.38  なぜ過去の給与履歴を質問してはいけないのか?/ オンラインビジネスの主な形態  

No.39  来るべき人材採用難と従業員の離職対策/ 新しい「働く」をデザイン-オフィス再開に向けて-/ 「日本型」ジョブ型雇用が抱える課題 

No.40  出張の回復は2024年/ 予定納税ってなに?自分には関係ある? 

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No.42  リモートワーク下での人事評価/ 駐在者へのトレーニング

No.43  2019年からの求人数・雇用数の推移/駐在員のジレンマ~相手の価値観と自分の価値観~/米国大使館のEビザ申請の現状

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No.45  ワクチン接種を拒む従業員への対応/昇給・給与設定にありがちな問題!~問題を回避する秘訣とは?!~/クラウド時代のネットワークを実現するSecure Access Service Edge(サシー)

No.46 雇用者数の推移と、重要な数値/GILTI(米国外軽課税無形資産所得)とFDII(外国稼得無形資産所得)

No.47  2022年カリフォルニア州の人事関連 新しい法律

No.48  コロナ禍によるパワーシフト | その会議に心理的安全性はありますか?

No.49  各州での最低賃金の上昇 | 日系企業の意識改革の試み

No.50  評価制度を止めた企業はどうなったか? | H-1B、E、Lビザ配偶者の就労許可について

No.51  2022年は日系企業のDEI元年| 個人の確定申告で注意すべき4つのポイント

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No.53  2022年アメリカの物価上昇と昇給への影響は? | あなたは、どのように組織に「社会化」していますか?

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No.62 ジョニー・デップとアンバー・ハードの裁判からHRは何を学ぶか? | 大量退職時代を乗り越えるために知っておくべき総報酬(Total Reward)の基本

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No.66 セクハラ防止トレーニングは継続しなければならない | なぜ、あなたは部下の話が聞けないのか?

No.67 NFLチームでのハラスメントとハラスメント防止規定 |  大量退職時代に従業員を惹きつける401(k)プラン

No.68  HRを仕事にしたら給与はいくらか? | リモートワークの見直しを契機に!ADA上の「配慮」と米国労務管理の「基本書類」| 教育水準も高いテキサス州!全米ベスト学校区100に5学校区がランクイン!

 

 

 


 

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