【アメリカの人事部】「急がば回れ」が機能するとき

 

     

 

 



   

 

「急がば回れ」が機能するとき

 

「変えなければいけないのは 『変化』に対する捉え方だ。リーダーは変化を『時折、偶発的に起こる混乱』と考えるのではなく、『マネジメントの本質』と捉えるべきだ」

 

これは、Harvard Business Review 2017.10.26に掲載された論文の一説です(※)。あなたはこの文章をどのように解釈しますか。

 

私自身は、これを「リーダーは"常に"変化について考え、変化について対話し、変化を起こすことが問われている」というメッセージと捉えています。

 

今回のコロナ禍のような外側の環境の変化によって自組織や自身が変化を迫られ、それによって変化するのではなく、常に「いかに自ら変化を起こすか? いかに自ら変化するのか?」という問いと向き合うのがリーダーであると。

 

そう捉えたとき、あなた自身はどのように自分を振り返るでしょうか。

 

 

私には時間がない

現在、多くのリーダーが、より速いスピードで変化を起こすためにコーチングを活用しています。

 

ある企業のエグゼクティブであるAさんとは、Aさんが待ったなしの変革に取り組み始めたタイミングでお会いしました。Aさんには重要なミッションがありました。2年間で事業の未来を明確にし、必要な構造改革を成功させることです。

 

Aさんと初めてお会いした時のことです。Aさんからはっきり告げられました。

 

「私には時間がない。やりたいことははっきりしている。もしコーチングが役に立つならやるが、邪魔になるようであれば申し訳ないがやる気はない」

 

一方で、Aさんの言葉からは焦りや葛藤も伝わってきました。

 

「私の説明が足りないのか、全体の動きが鈍く感じる。スピードが上がらない。焦っているんです」

 

その言葉にAさんのお役に立てることがあると確信したものの、どこから取り組んでいくとよいのか、手探りでスタートしたコーチングでした。

 

エグゼクティブ・コーチングでは、クライアントにとってのキーパーソンにインタビューをします。Aさんとのコーチングにおいても、Aさんが変革の仲間と考えているキーパーソン5名にインタビューをしました。そこから見えてきたのは次のようなことです。

 

・キーパーソンたちは、Aさんの変革に一定の理解を示しつつも、気持ちが追いついていない

・キーパーソンたちは、Aさんが何とかしてくれると思っている

・キーパーソンたちは、長年の変革に疲れていて、無力感を感じている

 

Aさんは、自分が思っていたような信頼関係をキーパーソンたちとの間に築けていなかったことを知り、愕然とする結果となりました。

 

 

キーパーソン一人ひとりと対話する

実は、Aさんとのセッションで違和感を感じていることがありました。焦りからなのか、Aさんは伝えることに一生懸命で、私が話し始めると先を勝手に推測し、遮って言い訳を始めたり、説明を始めたりすることが繰り返されるのです。

 

キーパーソンへのインタビューの結果から「これは自分との関係においてだけ起こっていることではない」と確信した私はAさんに伝えました。

 

「本当に急いでいるなら、相手の話を最後まで聞いてみませんか?」

 

そこで、Aさんは信頼関係を築き直すために、キーパーソンとの継続的な対話の場を設けることにしました。5人のキーパーソンとAさんの6人で話す場、それからキーパーソン一人ひとりと1対1で話す場。どちらの場でもAさんはとにかくキーパーソンたちの話に耳を傾ける。それを徹底することを決めました。

 

それでも最初のうちは、キーパーソンたちはAさんの話に合わせるばかりで、自由に意見を言ってくれなかったそうです。それでも対話の場を持ち続けているうちに、徐々に彼らが自分たちの思いを話し始めたといいます。「話したいタイミングが来た」ということなのかもしれません。

 

Aさんは「その瞬間、その場の温度が上がるのがわかった」と言います。

 

 

まず受け止めなければ伝わらない

先日、NHKの番組で興味深い話を耳にしました。連日テレビで報道されるウクライナ情勢のニュース。日々それを目にする子どもたちが、心を痛め、不安定になっているというのです。その番組では、親が不安定になった子どもに関わるときの5つのポイントを紹介していました。それは次の5つです。

 

1.子どもの話したいときに

2.子どもに合わせて

3.子どもの話を受け止める

4.世界中の大人たちが、問題の解決に向けて努力していることを伝える

5.現実的な解決に参加させる

 

番組では、1、2、3に関する補足として「大人はすぐに『大丈夫だよ』と先回りしてしまうが、それは実は子どもの話を受け止めていないのと同じである」と説明していました。まずは受け止めてからでないと、こちらが伝えたいと思うことは伝わらないということなのでしょう。

 

この話は私の中で、Aさんが社内で取り組まれたことに重なりました。

 

 

変化を起こすためにまず取り掛かること

キーパーソンが自らの思いを話し始めるようになったとき、Aさんは伝えました。

 

「あなたには、変革のインフルエンサーになってほしい。具体的には、私とあなたたちとで一緒にやってきたことを、次はあなたの部下たちと一緒にやってほしい」

 

その後のキーパーソンたちの動きは早かったと、Aさんは嬉しそうに語ってくれました。

 

***

私たちリーダーは、常にスピードを求められます。しかし、大きな変化ほど一人で起こすことはできません。仲間の気持ちを脇においては、スピードを上げられないことを教えてくれた体験でした。

 

「リーダーは"常に"変化について考え、変化について対話し、変化を起こすことが問われている」

 

本当に早く変化を起こしたいならば、まず仲間の思いに耳を傾ける時間を取ることから始めてはいかがでしょうか。

 

「急がば回れ」、です。

 

【参考資料】
※ Schaffer, R., Oct. 26, 2017, “All Management Is Change Management”, Harvard Business School Publishing

 

 

※この記事に関してのご質問は、(株)コーチ・エィまで、お気軽にお問い合わせください。

 

 

 

【出典】

(株)コーチ・エィ  

Hello, Coaching!  

Coach's VIEW   

「急がば回れ」が機能するとき

(2022年05月25日掲載)より 

 

【筆者】

長田祐典

株式会社コーチ・エィ

執行役員

国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ

一般財団法人生涯学習開発財団認定マスターコーチ

                                                      

[プロフィール]

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。株式会社資生堂の営業担当として、化粧品専門店の売上拡大のためのソリューション営業を実施する。その後、コーチ・エィに入社。1万人近いビジネスパーソンへコーチングのトレーニングを実施する。現在はエグゼクティブコーチとして、多くのクライアントの目標達成を支援。組織の風土改革や社員の意識改革といった組織変革に向けた大規模プロジェクトを多数手掛けている。

 

 


 

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