【アメリカの人事部】ワクチン接種を拒む従業員への対応

 

 

 

     

ワクチン接種を拒む従業員への対応

 

皆様にはすでにニュースでお聞きになられているかと存じますが、バイデン大統領が9月前半に発表した、従業員数100名以上の企業に対する従業員へのワクチン接種義務化について今回は取り上げてみたいと思います。ワクチン接種の義務化は連邦政府職員および連邦政府の業務に携わるコントラクター、そして連邦政府から財源が支出されている公的保険制度であるメディケアおよびメディケイドの支援を得ている医療機関で働く医療従事者とあわせて、今回全米にある従業員100名以上を雇用する企業も接種義務の対象に付け加えられることになりました。

 

まずこの100名以上の従業員数の定義なのですが、1企業単位で100名以上ということになりますので、本社である拠点に80名の従業員がいて、他州に20名の従業員が分散している企業もやはり義務化の対象になります。では日本にある親会社が共通して持たれているグループ企業もグループ企業で働く従業員の総数が100名を超えているのであれば、その対象になるのでしょうか。いまのところ、そのような定義や解釈はどこにも書かれてはいませんので、従業員100名以上という企業の定義はグループ企業全体ではなく、あくまでも個々の企業における従業員数であるとお考えになっていただいてよろしいものかと推測します。

 

続けてこの接種義務化についてもう少し深掘りしたお話をしてみましょう。接種義務化というと、社内で接種しない従業員がいた場合、会社はその従業員を本当に解雇までしなければならないのでしょうか。ユナイテッド航空では接種を受けなかった従業員約600名近くを解雇したというニュースが最近メディアで取り上げられていました。ユナイテッド航空ではすでに99%以上の従業員がワクチン接種を受けたということでしたが、最後の1%未満の従業員はそれを拒んだため、会社として解雇せざるを得なかったということのようです。このような従業員の解雇までをも含む厳格なワクチン義務化措置を取る会社はいまだ少数派ではあるものの、ユナイテッド航空以外でも食肉加工大手のタイソンフーズや全米鉄道旅客公社であるアムトラックなど、業界や業種によって散見されるのも事実です。

 

解雇という言い方まではとってはいないものの、中には未接種の従業員に対して”Unpaid Leave of Absence”を強いるとポリシーを作っている企業もあります。つまり会社の言い分としては接種を終えるまでは従業員には無給休暇を続けてもらうということの措置になります。だから従業員を解雇したというわけではないという弁明をしているわけです。しかしここでいくら解雇ではないと言ったにしても、無給休暇期間に期限の限定を設けているわけではないですので、接種を受けないのであれば、未来永劫的に会社に戻ることはできませんよといっているのに等しいわけです。確かに会社に席だけは何とか残しておいてあげるけれども、接種を終えるまでは給料も出さないし、会社への出入りも禁止しますよというわけです。これでは解雇といったいどこが違うのだといわれてしまっても仕方ないところでしょう。

 

ただし、いくらワクチン接種を義務化するといってもこのような強硬姿勢を会社が貫くのは2つの法律上、大きな問題がありリスクが発生します。2つの法律とは、それぞれ雇用上での差別を禁止する連邦法であります、アメリカ人障害者法(ADA: Americans with Disabilities Act)、そして公民権法第7章(Civil Rights Act Title VII)です。自身が持つ障害や体質によってワクチン接種を受けられない従業員にはADAの縛りが、そして自身が真摯に信仰する宗教上の理由からワクチン接種を受け入れられない従業員にはタイトルセブンの縛りがそれぞれ企業に課せられることになります。これら2つの法律では、会社は従業員との間で、双方向的な対話プロセス(Interactive Process)をとり、会社には過度の負担(Undue Hardship)のない範囲内での提供が可能である合理的措置(Reasonable Accommodations)についての可否を誠実に話し合うことが求められています。

 

ですので、これらの対話的プロセスを経ずにいきなりワクチン接種をしていないからということだけを理由に従業員を即刻解雇するというのは、ADAまたはタイトルセブンへの準拠上、会社が訴えられる、あるいは連邦の規制当局であるEEOCにクレームの申し立てを起こされるリスクが相当高まってくることになります。そこでほとんどの企業では強硬なワクチン義務化ポリシーの策定はあまりにリスクが高すぎるということで、接種の義務化を促したとしてもソフトランディング的なポリシーにして接種しない、あるいはできない従業員との間でのほどよい落しどころを見出すというところにまでもっていくことになります。

 

具体的には未接種の従業員は毎週必ず1回PCR検査での陰性結果を提出させる、リモートワークが続けられる業務に異動させる、他の従業員と接する機会が少ない(あるいはほとんどない)職場環境または勤務シフトに異動させる、などの合理的措置が取れるかどうかを会社と従業員本人との間で協議と検討とを重ねてまいります。これは双方にとって忍耐のいる、また時間のかかるプロセスとなりますので、双方が協力的でなければうまくいかなくなる可能性も大いにありうります。それでもなんとかして双方で妥協できる、そして納得のできる着地点を見出すことが求められるわけです。どうしても着地点が見出だせられなかったときに初めて会社はUnpaid Leave of Absence の措置を施行するということになります。ですが、これは最後手段であって、最初からUnpaid Leave of Absence ありきが前提なのではないことは十分おわかりになっていただけたかと思います。

 

 

 

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  【執筆】

   

 

Pacific Dreams, Inc.

President & CEO

酒井謙吉 Ken Sakai

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www.pacificdreams.org

Email : kenfsakai@pacificdreams.org

Phone: 503-783-1390  

 

【プロフィール】

信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。

   


 

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