昇給・給与設定にありがちな問題! ~問題を回避する秘訣とは?!~

 

 

      

 

昇給・給与設定にありがちな問題!~問題を回避する秘訣とは?!~

 

2021年も第4四半期に入り、在米日系企業の皆さまの多くでは、年末の評価セッションやそれに伴う昇給に関する準備が始まっている頃かと思います。「昇給をどの様に行うべきか」「昇給の有無によってどの様な影響が生じるか」など、考える事は多岐に渡るのかと思いますが、頻繁に見聞きするのが「間違った情報を参考にしている」ケースや「情報を正しく解釈できていない」といったケースで、これは以前から頻繁に発生してしまっている問題です。そのため、今回は「給与・昇給に関するありがちな問題点」と「その問題に陥らないための考え方」についてまとめています。

 

 

昇給に関する問題

昇給に関してよく見聞きする間違いとしては「昇給率は消費者物価指数と連動して3%上昇する」「昇給率は“昇給トレンド”に合わせて上げる」「日本本社の給与事情を反映させる」などが挙げられます。

 

まず、「昇給率は消費者物価指数と連動して3%上昇する」という事については実際にその様な事実は無く、例えば消費者物価指数がマイナスになったとしても減給はされず、3%以上だったとしても大幅な一斉昇給がある訳ではありません。

 

また、「昇給率は“昇給トレンド”に合わせて上げる」という事については、昇給トレンドというのは「次年度の人件費予算の上昇率」であり、過去10年ほど3%という水準が続いていますが、これは個々の昇給率とは異なるものになります。個々の昇給率は、対象者の給与水準や評価結果、会社の状況という内的/外的要因によって変動するため、一律という形やそれに近い形で3%昇給させる事はほとんどありません。特に、ポジションごとに「市場給与レンジ」というものが存在するため、給与レンジの上限に近い人は評価が良かった場合でも昇給率は小さくなるなど、市場相場が正しく反映されている必要があります。(例: 受付の人が年収1,000万円になる事は無い)

 

そして、「日本本社の給与事情を反映させる」という事については、日本とアメリカでは物価も給与の仕組みも全く異なるため、アメリカではアメリカの考え方を適用させる必要がありますが、それが日本本社サイドでなかなか理解されていない事が非常に多いという現状があります。

 

 

給与設定に関する問題

給与設定に関しては「採用マーケット」と「参考資料」などといった問題点が挙げられます。

 

まず、「採用マーケット」については、アメリカでは「在米日系市場」と「アメリカ市場」の二つに大別できるのですが、例えば、今までの採用はアメリカに住む日本人などのビザホルダーが中心で、その時は他の日系企業の給与を気にしていれば良かったものの、最近は就労ビザが発行されにくい事やローカル化などの影響によって、採用マーケットが「在米日系市場」だけではなくなり「アメリカ市場」が主流となっている傾向があります。そうなると、考慮すべき給与レンジも変わり、「在米日系市場」の水準では無く「アメリカ市場」の水準に合わせなくてはなりませんが、それにも関わらず給与水準を「在米日系市場」で考えてしまっている所も多く見受けられる現状があります。

 

また、「参考資料」に関しては、「在米日系社会で配られている無料の情報」と「アメリカのサイトに載っている無料情報」などが挙げられますが、問題なのが、数字というものは一見間違いが無い様に捉えられるため、情報を鵜呑みにしてしまい、見ている資料がどういったものであるのかを考えずに利用してしまっている点です。給与データを参考にする際は「エリア・業種・職務内容」の3つがポイントになるのですが、特に、職務内容の部分を精査せずにポジション名だけで判断してしまう事が多い様に思われます。実際、無料ソースはこのジョブマッチングが細かくできない事が多いため、自社のポジション名とソース内のポジション名が同じであった場合に数字を鵜呑みにしてしまいがちですが、例えば「エンジニア」という職種でも、ITエンジニアなのか機械エンジニアなのかでも給与レンジは異なり、「総務」という事でも実は会計・経理系の作業が多いのであれば総務の給与レンジでは低すぎるという事などが考えられます。要するに、見ているソースの職務内容が何であるのかという事が重要になるのですが、それが書いていない場合は、あまり参考にできない情報となってしまいます。また、アメリカでは管理職であっても、それが会計・総務・営業など、部門ごとで市場の給与レンジは大きく異なるため、見ているソースが「マネージャー」という様な曖昧なポジション名で記載され、部門が特定できない場合は、全く参考にできない情報になってしまうため注意が必要です。

 

 

日米の給与構造の違い

上述の内容をより理解しやすくするために、日米の給与構造の違いに着目してみると、日本では「終身雇用」をベースに成り立っている一方、アメリカは「随意雇用(At-Will)」という事で、働く事に関する仕組みが根本的に異なるというポイントが挙げられます。

 

日本の「終身雇用」では、給与は基本的に生涯年収に従って年功で上がっていくものであるため、年次による給与額や昇給額に上限がある事や、働き方がメンバーシップ型であるためにタスクが頻繁に変わり評価がしにくいという特徴があり、その一方でアメリカの「随意雇用(At-Will)」では、職務内容や責任によって基本給レンジに対する市場相場が存在し、評価結果によって基本給やボーナスの金額も変動する上、働き方がジョブ型であるためにタスクがある程度明確なので評価しやすいといった特徴があります。

 

また、日米の最も大きな違いは「従業員を解雇できるかどうか」という点にあり、アメリカの場合は会社の業績が悪くて人件費をカットしたい、あるいは特定の職務が必要無くなった、給与に成果が見合わないなどといった場合に、解雇という形で人件費をコントロールできる、またはそれを前提として報酬設計がなされています。そのため、ある程度アグレッシブに昇給を行っても問題が無い一方で、日本では基本的に解雇ができないため、常に人件費の総額やバランスを長期的に考慮しなくてはならず、思い切った昇給ができないなどといった違いが挙げられます。他には、日本では雇用保障が強い(かった)一方で、アメリカには雇用保障という考え方は現在ではほとんど存在しないといった点も挙げられますが、やはり、給与の立ち位置や在り方は、日米において大きく異なるという事に尽きるのではないでしょうか。

 

 

Human Resources(≠人事)という分野の重要性

給与・昇給に対する取り組みも、Human Resources(HR)の中の専門分野になりますが、報酬というのは「従業員に対する会社からのメッセージ」と言われる程、組織運営の中で重要な役割を果たします。従来の日本の「人事」の役割は「新卒一斉採用でどの様に良い人材を集めるか」「定年退職までどの様にその人材を運用するのか」といった側面が強くありますが、アメリカでは「優秀な人材を採用する、および保ち続ける (リテンション)」という側面が強いため、給与の在り方や報酬戦略の方向性が日米で大きく異なります。

 

HRという分野では、海外拠点のあり方なども含め、働き方に関する様々な要素が深く研究されており、報酬(Compensation)に関しても多くの事が考察され続けています。組織を正しい方向に導くための「給与・昇給」を含めた報酬設計をより実践的なものにするために、皆さまの社内におけるHRの重要性や取り組みに関して、今一度見直されてみてはいかがでしょうか。

 

 

参考動画:【驚愕】アメリカで働くと、実際いくら貰えるの?|給与額を複数・大公開!【アメリカで働く・雇用する方必見】

 

 

 

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【執筆】    

 

SolutionPort, Inc.

President

Kimihiro Ogusu, SHRM-SCP

Email :contact@solution-port.com  

 

【プロフィール】

全米HRマネジメント協会の上級プロフェッショナル認定資格、および医療/生命保険ライセンスを保有する、Human Resources分野のエキスパート。

全米各地の日本商工会議所やJETRO、日本ではVenture Café TOKYOや大学などで講演を重ね、メガバンクのサイトを大好評連載中。

アメリカと日本双方の義務教育を始め、日本にあるベンチャー/上場企業、日本に本社を置く米国法人、アメリカにあるローカルの日系企業、および純米系企業の勤務経験があり、日米における文化の違いを熟知するバイリンガル。中央大学経済学部卒。  

 

【会社情報】

所在地:450 Lexington Ave., 4th FL., New York, NY 10017

URL:https://note.com/0__/n/nfafa1d6bb582

 

【事業内容】

HRおよび保険のコンサルティング (書面・制度の作成、研修の実施、給与・保険の調査、HRアウトソーシング、組織・働き方の見直し、労務関連ツールの提供など)   免責:掲載内容は人事的側面から実用的な情報を提供するものであり、法的なアドバイスではありません。  

 

 


 

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No.1 日本の人事について、トランプ政権発足以降のビザ取得の状況

No.2 人事が知っておくべき高額医療/消費者保護法(CCPA)施行/感染症対策

No.3 コロナウィルス拡大で米国CDCも推奨「在宅勤務」について/シックリーブ

No.4 在宅勤務特集/在宅勤務に関するQ&A

No.5 コロナウイルスに関するQ&A/WiFiの規定/より快適な在宅勤務のコツ

No.6 CDC雇用者向けページを確認しよう/After COVID-19の訴訟について

No.7 ポスト・コロナの職場環境/ビザ取得の状況/WEB面接のコツ

No.8 出社への不安という理由/職場再開における適正な準備と手順

No.9    Return to Workのポリシーを作ろう/オフォス再開に関する一問一答

No.10  コロナ禍で考える「評価制度の構築」/ Don’t be silent ~アメリカの人事は差別との闘いであるから

No.11 移民法、雇用調整助成金(ERC)最新情報

No.12 失業保険の不正受給が急増/評価制度Q&A

No.13 職場におけるコロナ関連訴訟/ オフィス対策/ 感染テスト

No.14  ジョブ型?メンバーシップ型?/自主隔離を終了させる新たなガイドライン

No.15  CA州無給休暇と収入保障/強い企業になる!ブラックスワン比較とは

No.16 ポストコロナの新入社員研修/最新移民法/リモート採用注意点/失業率の推移、学校再開Q&A

No.17 訴訟が多いワースト10/コーチングの活用目的

No.18 緊急有給シックリーブ法の改定/リモートでのコミュニケーション

No.19 各州の雇用に必要な給与額/従業員が感染!会社としての対策とは

No.20 2021年は2.6%昇給すべきか?!/採用もマーケティングと同じ

No.21 バイデン新政権誕生で変わる今後の雇用情勢/H1b申請新基準

No.22 企業が提供する祝日と割合/オンラインホリディパーティゲーム9選

No.23 医療費は上がり続けるのか?

No.24 2021年有給シックリーブ法/何はなくともブランディング

No.25 グラフで振り返る2020年/新世代のコミュニケーションCPaaSとは

No.26 ワクチン接種を強制しますか?/H-1Bビザ抽選プロセスの変更案について

No.27 大統領令と法律の違い/医療費控除を最大に/州政府の仕事を請け負うには

No.28 従業員ベネフィットのトレンド/COVID後のオフィスデザイントレンド

No.29  COVID-19救済法と人事関連情報/コミュニケーションは進化する/音声メディアを考えてみる

No.30  2021年ハンドブック更新の拠り所/まだ間に合う!節税のためのIRA/クラウドサービス利用の秘訣

No.31 大麻使用許可による職場規定とドラッグテストの影響/永遠に勝てる組織を作るには

No.32  あなたの給料はAIが決めてもよいか?/駐在員が絶対に知らないといけない個人税務知識

No.33  アメリカの失業保険制度と給付金/最近のアメリカ移民法事情/日本帰国のポイント  

No.34  リモートワークでの雇用と離職について/短期の離職を抑えるためにできること/音声メディアを考えてみる Part:2

No.35  CA州はマスクを外せないのか?/ここだけは押さえておきたいIRS

No.36  新法HERO Act法とは?/「小さな物語」が組織を変える

No.37  学生スポーツのビジネス化/ リモート、ハイブリッドでの新人教育

No.38  なぜ過去の給与履歴を質問してはいけないのか?/ オンラインビジネスの主な形態  

No.39  来るべき人材採用難と従業員の離職対策/ 新しい「働く」をデザイン-オフィス再開に向けて-/ 「日本型」ジョブ型雇用が抱える課題 

No.40  出張の回復は2024年/ 予定納税ってなに?自分には関係ある? 

No.41  日本にあってアメリカにないものは?/変化の時代ころ「パーパス」について語り合う

No.42  リモートワーク下での人事評価/ 駐在者へのトレーニング

No.43  2019年からの求人数・雇用数の推移/駐在員のジレンマ~相手の価値観と自分の価値観~/米国大使館のEビザ申請の現状

No.44  2022年のSalaryトレンド。インフレ+人手不足で昇給率は更に上がるか?/コロナ後の新しい雇用のカタチ/アメリカ進出!BtoBマーケティングの基本となる8つのポイント

 

 

 


 

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