【アメリカの人事部】駐在員のジレンマ~相手の価値観と自分の価値観~

 

 

     

 

駐在員のジレンマ~相手の価値観と自分の価値観~

 

独身でバンコクに駐在していた私にとって、朝一番に会話をするのもその日最後に顔を見るのも運転手さんでした。毎朝6時に出るにも関わらず、必ず朝洗車をしてピカピカの状態で私を迎えてくれ、遅刻・欠勤も一度もない素晴らしい自慢の運転手さんです。

 

結局私の帰任迄の4年間、一緒に働いてくれましたが、その間3回、辞めたいと言われたことがあります。理由はいつも同じでした。「綾子さんが怖い。一緒に働きたくない。」と。メンバーのタイ人社員に理由を聞いてもらうと、大体いつも同じでした。きつい言い方をされた(声のトーンがきつい)。車内で大きい声で話をしているのが嫌だ。黙ってPCで仕事をしているのも怒っているように見える。いつも英語で話かける(タイ語を使わない)。私の空気感が怖いとのこと。

 

私としては、新規で立ち上げた拠点をいち早く黒字化しビジネスを軌道に乗せることがミッションだったので、初めてこのフィードバックをもらった時は、全く何が不満なのか理解できませんでした。タイ語を使わず英語で話していたのは、運転手さんのためとさえ思っていました。英語ができる運転手は、マーケットの価値が高いと。その後、タイ人社員の退職が数名続いたため、本社に出張した際にアセスメントを受け、トレーニングに参加する羽目になりました。

 

以下は、その時に受けた異文化適応力の自己認識と適応性を診断するアセスメントです。アセスメントは5つの異文化適応段階に分類され、自己認識と実際の適応性のギャップを計ります。

 

 

各段階の定義は以下となります。

 

「拒絶」表面的な文化的違いしか理解せず、目に見えない文化的相違は避ける。

「二極化」自分と他者に二極化して考える。過度に自文化を尊重し他文化を批判したりする(その逆もあり)。

「極小化」自文化と他文化の共通点に目を向け、違いには触れないようにする。

「受容」自文化と他文化の違いも共通点も認識し、それを受け入れる。

「適応」その場に適した状態に文化的観点から自分の行動を変容できる。

 

 

 

 

上の2つのグラフがアセスメントの結果で、上が自己認識、下が適応性です。私は自分の結果を見て愕然としました(今までどんな試験でも下から3.5%に属したことはありません!)。このアセスメント自体の信ぴょう性を疑いました。これまで海外の高校と大学でも学び、世界中をバックパックで旅もしました。英語でも問題なく仕事ができている認識です。それでも適応性としては相手の文化を「拒絶」しているレベルにいる。

 

海外駐在は当然、留学や旅行とは違い、常に利害関係が発生する中でそれぞれ異なる立場のメンバーと協力して成果を上げることが求められます。駐在員としての自分のミッション(価値観)と現地で日系企業を選んで働いている現地のメンバーにとって大事なこと(価値観)、その大きな隔たりをどう融合させていくのか。また、国ごとに異なる文化に対して、仕事で成果を出すために、自分をどう適応させていくのか。この2つは、駐在員一人ひとりが本来持っている能力を発揮し続ける上で鍵となる要素だと思います。

 

現職では、世界中の日系企業と仕事をさせて頂いておりますが、共通する悩みは、現地の社員が定着しないことです。「条件が良い方にすぐに転職してしまう。」「アメリカ人は平均して生涯13回転職する。」など皆さんおっしゃいますが、本当に条件だけでしょうか。そうだとしたら、その方達でさえ、条件が良かったからその会社に来たわけです。そんな理由で片付けてしまって良いのでしょうか。

 

自分のアセスメントの結果にショックを受けたままバンコクに戻り、まずは空港に迎えに来た運転手さんにタイ語で話すようにしました。それから、通常のミーティングとは別に、現地のマネージャー5人と必ず1週間に30分、コーチングをしました。また、現地のメンバーが最も苦労していたセミナー集客を自分が率先してやるようにしました。すると、それを見ていた運転手さんが、運転手さん仲間を通して駐在員を集客してくれるようになり、一気にターゲット層への集客が増えていったのです。それを見てタイ人メンバーは自分達で集客方法を考えどうしたら目標を達成できるか、考えて試すようになりました。そこから退職者が出ることもなくなりました。

 

これまでと変えたことは3つあります。①自己開示:駐在期間に実現したいことを感情を込めて話すようにしました。ひどい結果のアセスメントも共有しました。②価値観の接点を作る:コーチングを通して相手の価値観を知り、そこに対して具体的に行動で示す(タイ語で運転手さんに話す。相手の武勇伝に紐づけて話す、等)。③異文化適応:その国の文化に合わせて、コミュニケーション、フィードバックの仕方、反対意見の述べ方、信頼関係の築き方、リーダーシップの発揮の仕方、計画と実行の進め方、の6つの領域に分けて、スキルとマインドセットの両面から自分の行動計画を作り、その取り組みを開示しました。これら全ては駐在のミッションを遂行するためです。

 

自分は何しにこの国に来たのか、自分がここで働いた証として何を残していくのか、言葉にしてさらに形にすることは簡単ではないと思います。それでも、そこに向き合い続けることが、その現地法人の企業文化を作り、企業価値を高めていくのだと思います。

 

 

※この記事に関してのご質問は、EggForward Inc.まで、お気軽にお問い合わせください。  

 


 

  【執筆】

  

 

EggForward Inc.

海外事業部 ダイレクター

高林 綾子  Ayako Takabayashi

www.eggforward.co.jp

Email :ayako.takabayashi@eggforward.co.jp

 

【プロフィール】

みずほ証券に勤務後、小学生から社会人を対象とした英会話スクールを立ち上げ、短期留学や講師の企業派遣も行う。事業売却後、拠点をシンガポールに移し、コーチ・エィに入社。シンガポールとバンコクに8年駐在し、日系企業の現地化に向けてエグゼクティブコーチングの案件を100社以上に導入。エッグフォワードに入社後は、世界中の日系企業に対する組織変革支援に従事。

 

【事業内容】

組織変革支援事業・イノベーション&プラットフォーム事業・スタートアップ支援事業

   


 

●「アメリカの人事部」ニューレターのお申込み

クイックUSAは「アメリカの人事部」を発足し、在米日系企業様向けにニュースレターを配信させていただいております。アメリカでビジネスを遂行していくために、必ず知っておかなければならない法律、人事・労務、ビザなどの最新ニュースを定期的にお届けしております。「アメリカの人事部」のニュースレターの受信をご希望の企業様は、下記までお気軽にお申し付けください。  

 

「アメリカの人事部」のニュースレターお申込みご希望の方はお手数ですが、会社名、ご担当者様氏名、役職、電話番号、会社のご住所、E-mailアドレスを明記の上、下記E-mailアドレスまでご連絡くださいますようお願いいたします。  

 

E-mail:info-usjinjibu@919usa.com  

 

     

 

「アメリカの人事部ニュースレター」のバックナンバーをご希望の方は、 E-mail:info-usjinjibu@919usa.com まで、ご希望のナンバーをお気軽にお知らせください。  

 

【バックナンバー】

No.1 日本の人事について、トランプ政権発足以降のビザ取得の状況

No.2 人事が知っておくべき高額医療/消費者保護法(CCPA)施行/感染症対策

No.3 コロナウィルス拡大で米国CDCも推奨「在宅勤務」について/シックリーブ

No.4 在宅勤務特集/在宅勤務に関するQ&A

No.5 コロナウイルスに関するQ&A/WiFiの規定/より快適な在宅勤務のコツ

No.6 CDC雇用者向けページを確認しよう/After COVID-19の訴訟について

No.7 ポスト・コロナの職場環境/ビザ取得の状況/WEB面接のコツ

No.8 出社への不安という理由/職場再開における適正な準備と手順

No.9    Return to Workのポリシーを作ろう/オフォス再開に関する一問一答

No.10  コロナ禍で考える「評価制度の構築」/ Don’t be silent ~アメリカの人事は差別との闘いであるから

No.11 移民法、雇用調整助成金(ERC)最新情報

No.12 失業保険の不正受給が急増/評価制度Q&A

No.13 職場におけるコロナ関連訴訟/ オフィス対策/ 感染テスト

No.14  ジョブ型?メンバーシップ型?/自主隔離を終了させる新たなガイドライン

No.15  CA州無給休暇と収入保障/強い企業になる!ブラックスワン比較とは

No.16 ポストコロナの新入社員研修/最新移民法/リモート採用注意点/失業率の推移、学校再開Q&A

No.17 訴訟が多いワースト10/コーチングの活用目的

No.18 緊急有給シックリーブ法の改定/リモートでのコミュニケーション

No.19 各州の雇用に必要な給与額/従業員が感染!会社としての対策とは

No.20 2021年は2.6%昇給すべきか?!/採用もマーケティングと同じ

No.21 バイデン新政権誕生で変わる今後の雇用情勢/H1b申請新基準

No.22 企業が提供する祝日と割合/オンラインホリディパーティゲーム9選

No.23 医療費は上がり続けるのか?

No.24 2021年有給シックリーブ法/何はなくともブランディング

No.25 グラフで振り返る2020年/新世代のコミュニケーションCPaaSとは

No.26 ワクチン接種を強制しますか?/H-1Bビザ抽選プロセスの変更案について

No.27 大統領令と法律の違い/医療費控除を最大に/州政府の仕事を請け負うには

No.28 従業員ベネフィットのトレンド/COVID後のオフィスデザイントレンド

No.29  COVID-19救済法と人事関連情報/コミュニケーションは進化する/音声メディアを考えてみる

No.30  2021年ハンドブック更新の拠り所/まだ間に合う!節税のためのIRA/クラウドサービス利用の秘訣

No.31 大麻使用許可による職場規定とドラッグテストの影響/永遠に勝てる組織を作るには

No.32  あなたの給料はAIが決めてもよいか?/駐在員が絶対に知らないといけない個人税務知識  

No.33  アメリカの失業保険制度と給付金/最近のアメリカ移民法事情/日本帰国のポイント

No.34  リモートワークでの雇用と離職について/短期の離職を抑えるためにできること/音声メディアを考えてみる Part:2

No.35  CA州はマスクを外せないのか?/ここだけは押さえておきたいIRS

No.36  NY州新法”HERO Act法”ととは/「小さな物語」が組織を変える

No.37  学生スポーツのビジネス化/ リモート、ハイブリッドでの新人教育

No.38  なぜ過去の給与履歴を質問してはいけないのか?/ オンラインビジネスの主な形態  

No.39  来るべき人材採用難と従業員の離職対策/ 新しい「働く」をデザイン-オフィス再開に向けて-/ 「日本型」ジョブ型雇用が抱える課題 

No.40  出張の回復は2024年/ 予定納税ってなに?自分には関係ある? 

No.41  日本にあってアメリカにないものは?/変化の時代ころ「パーパス」について語り合う

No.42  リモートワーク下での人事評価/ 駐在者へのトレーニング

 

 


 

【アメリカでのご採用をご検討中の企業様へ】

★採用でお困りなことはありませんか?

クイックUSAでは、アメリカでのご採用のお手伝いをしています。 フルタイム、パートタイム、派遣等、御社のご採用のお手伝いをさせていただきます。 お気軽に下記までご連絡ください。  

 


 

●人事・労務関連のご相談にも応じております。

クイックUSAではハンドブックの作成・見直し、ジョブディスクリプションの作成、セクハラ防止セミナーの開催など、 人事労務関連のご相談も承っております。内容、お見積りなど何でもお気軽に下記までご相談ください。  

 

QUICK USA, Inc.

[Los Angeles Office ](Headquarters)

1995 W.190th Street, Suite 200 Torrance, CA 90504

Email:quickla@919usa.com

Phone: 310-323-9190  

 

[New York Office ]

8 West 38th Street, Suite 802, New York, NY 10018

Email:quick@919usa.com

Phone: 212-692-0850  

 


 

【アメリカでのご転職・就職をお考えの方へ】

アメリカでのお仕事探し、就職・転職はクイックUSAにお任せください。  

弊社のサービスにご登録がお済みでない方は、まずは英文履歴書のご登録をお願いいたします。

www.919usa.comより、オンライン登録をしていただくか、

quick@919usa.comまでE-mailにて英文履歴書を添付ファイルにてお送りください。

折り返しご連絡させていただきます。  

 

※クイックUSAではニューヨークとロサンゼルスを拠点に全米で、留学生や社会人の求職者に対してアメリカでの就職・転職のお手伝いをしています。ご紹介しているお仕事は、金融、会計、IT、輸出入、人事、営業など多岐に渡ります。  

 

雇用形態はお仕事をお探しの方のライフスタイルに合わせて、 フルタイムのお仕事とテンポラリーのポジションをご紹介。 クイックUSAでは経験豊富なリクルーターが、求職者の皆様一人ひとりのご希望などを伺いアメリカでのキャリアプランを一緒に考えさせていただいています。   アメリカでお仕事をお探しであれば、アメリカ求人多数のクイックUSAに是非ご登録ください!(無料)  

 


 

★★クイックUSAにレジュメのご登録がまだの方は、今すぐご登録ください!★★

 

 

クイックUSAでは、ご登録者の方に対して無料のキャリアカウンセリングを実施しています。
★★Emailにてレジュメを送るだけで登録完了のエクスプレス登録もご利用いただけます!★★

         

 
アメリカで現在お仕事をされている方、OPTや学生の方など、現在アメリカに住んでいらっしゃる方へ
アメリカでのご転職・就職で何かご質問がございましたら下記よりご連絡ください。

 

   


 

QUICK USA, Inc.

[Los Angeles Office ](Headquarters)

1995 W.190th Street, Suite 200 Torrance, CA 90504

Email:quickla@919usa.com

Phone: 310-323-9190

 

  [New York Office ]

8 West 38th Street, Suite 802, New York, NY 10018

Email:quick@919usa.com

Phone: 212-692-0850

 


   

 

 
クイックUSAでは、LinkedinLINE、InstagramFacebookTwitterでも情報発信をしています。是非、フォローお願いします。