【アメリカの人事部】トランプ2.0政権1年目の移民政策

 

 

【アメリカの人事部】

 

トランプ2.0政権1年目の移民政策

トランプ大統領は再選にあたり、移民問題を最重要争点の一つとして掲げました。そして政権2期目(いわゆる「トランプ2.0」)の最初の1年で、その公約は急速かつ大規模に実行に移されています。政権は大統領令、大統領布告、政策ガイダンスといった行政権限を矢継ぎ早に発動し、移民政策に広範かつ急激な変化をもたらしています。その結果、不法滞在者への取締り強化にとどまらず、合法的に滞在・渡航する外国人にとっても、米国での「法的地位の安定性」が揺らぐ事態となっています。

急激に強化された執行環境とICEの存在感

2025年を通じて、移民取締りの現場は明らかに様変わりしました。政権発足当初は「犯罪歴のある不法滞在者を優先する」と説明されていましたが、1日あたり3,000人の逮捕という数値目標が掲げられる中、執行活動は急速に拡大しています。現在では、職場への一斉摘発、地域でのパトロール、いわゆるコラテラル・アレスト(本来の対象者以外の同時逮捕)が日常化しています。さらに、移民裁判所への出廷時やUSCIS面接時の拘束など、これまで事実上オフリミットと考えられていた場面でも摘発が行われるようになりました。執行の対象は、住宅、店舗、農場、建設現場、工場から、学校周辺や地域コミュニティにまで広がっています。2025年12月末時点で、移民収容施設の被収容者数は6万8,000人を超え、トランプ大統領は「約束を果たしている」と強調しています。

こうした執行強化は、社会的な摩擦も生んでいます。特に民主党支持の強い州ではICEの活動が目立つようになり、ミネソタ州をはじめ各地で執行活動に対する抗議デモが発生。ICEと抗議者の衝突が連日のようにニュースで報じられるなど、移民政策は単なる法執行の問題を超え、深刻な社会問題となりつつあります。

このような環境下で、合法的滞在者にとって重要なのは「常に身分証明を携帯する」ことです。国内移動やチェックポイント通過、予期せぬICEとの接触時に、I-94などで滞在資格を即時に証明できなければ、不要な拘束や手続きの長期化に巻き込まれるリスクがあります。

史上例のない予算規模

この大規模な執行活動を支えているのが、前例のない規模の予算措置です。2025年7月、議会は「One Big Beautiful Bill Act」を可決し、トランプ大統領が署名しました。この法律により、2026年度から2029年度までの4年間で、移民執行関連に総額1,700億ドルという巨額の予算が投じられます。ICEの拘束・収容関連だけで450億ドル、国境障壁の建設に466億ドルーーいずれも単体で数兆円規模の投資です。

これは、2025年度予算ですでに過去最高となる40億ドルがICE収容施設に充てられていたことに加えての措置であり、執行体制への投資は文字通り桁違いの水準に達しています。予算だけでなく、執行のためのインフラ整備も進んでいます。ICEは従来から法執行機関のデータに広くアクセスしてきましたが、現在は税務情報や社会保障記録など、これまで移民執行には使われてこなかった政府データも収集対象に加わりました。AI技術を活用したデータ分析も導入され、摘発能力は拡大しています。

ビザ審査の厳格化

非移民ビザの分野でも変化は顕著です。ビザ申請者に対するSNSアカウントの審査は、従来のF-1(学生)やJ-1(交流訪問者)に加え、H-1B(専門職)申請者にも拡大されました。F-1学生については、軽微な違反を理由にビザを取り消す政策も打ち出されましたが、これは後に停止されています。

 

H-1B制度の転換が示す政権の思惑

H-1Bは、専門的職業に従事する外国人のための就労ビザとして長年活用されてきました。特にF-1留学生が卒業後に就労へ移行する主要ルートとして知られています。年間発給枠を超える申請があるため、通常は抽選(ロッタリー)で選考されます。トランプ政権はこの仕組みを根本から変えようとしています。新たに提案された10万ドル(約1,500万円)の追加申請料は、高度な学歴・経験を持ち、雇用主が高額なコストを負担してでも確保したい人材だけを選別する意図が明らかです。

さらに、USCISは「賃金加重型ロッタリー」の導入を発表しました。賃金水準が高いポジションほど抽選に複数回エントリーされ、当選確率が高まる仕組みです。これにより、H-1Bを取得するには単に学士号を持つだけでは不十分となり、経験と実績に裏打ちされた高報酬人材が優先される方向へと制度が転換しつつあります。

 

直近の動き:75カ国への移民ビザ停止

直近では、75カ国を対象とした移民ビザ(永住権取得目的のビザ)発給の一時停止も実施されました。現時点では在外公館で申請するケースが対象ですが、ブラジルやタイなど日本企業と関係の深い国も含まれており、今後の動向に注意が必要です。

「誰が歓迎されるのか」という線引き

こうした一連の政策から浮かび上がるのは、「誰が米国に歓迎されるのか」という明確な線引きです。高度な技能、高い報酬、米国経済への貢献——これらを持つ人材には門戸を開く一方、低技能労働者や人道目的の入国者への道は狭まっています。その象徴が「Trump Gold Card」です。政府に100万ドルを寄付すれば迅速な永住権取得への道が開かれるというこの構想は、大規模な執行活動で多くの移民が拘束される現実と鮮やかな対照をなしています。

 

最後に

トランプ2.0政権の移民政策は、取締りの大幅強化と、政権が考える「米国にとってのネット・ベネフィット」があるかどうかを基準とした選別が同時に進んでいる点に特徴があります。不法滞在者への執行と並行して、H-1B制度の見直しや高額申請料の提案、賃金加重型ロッタリーの導入に見られるとおり、審査の軸は従来の「学士号を要する専門職か否か」という形式的基準から、実務経験、専門性の深さ、報酬水準などを通じて、当該人材が米国経済にもたらす純利益を重視する方向へと移行しています。企業にとっては、単にビザ要件を満たすかどうかではなく、当該人材が政権の描く「米国にとって価値のある人材」として評価され得るかを前提に検討する必要性が一層高まっていると言えるでしょう。


 

  【執筆】

    

冨田法律事務所 パートナー弁護士

比嘉 恵理子 (Eriko Higa)

11835 W. Olympic Blvd., Suite 355E, Los Angeles, CA 90064

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【プロフィール】

ミシガン大学ロースクール卒業。在学中は同ロースクールの国際法学雑誌でマネージング・エグゼクティブ・エディターを務め、米国連邦控訴裁判所にて法務経験を積む。日本、南米、米国で移民として育った経験と語学力を活かし、日本企業向けの移民法務に従事。 企業の就労ビザ、研修ビザ、出張ビザ、永住権申請やコンプライアンスのアドバイザリーから、実業家、アスリート、アーティストなど個人のビザ申請や永住権申請まで幅広い分野で法務支援を展開。米国移民政策の動向に関する記事を各種ウェブマガジンに定期的に寄稿し、日系企業向けセミナーでの講演活動も行っている。


 

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