【アメリカの人事部】アメリカの失業保険制度と給付金

     

 

   

 

アメリカの失業保険制度と給付金

   

深刻なコロナ禍に見舞われた昨年春には、全米各州および各主要都市では軒並み大々的なロックダウンが敷かれ、一時は失業率がリーマンショック時を大幅に上回る戦後最悪の数字を記録したことはいまだ記憶に新しいところです。 それ以降、コロナ禍で職を失った人々が一斉に失業保険の申請を行うようになり、失業保険受給者は全米で2,000万人を超える未曾有の記録が散見されました。  

 

現在は、ワクチン接種の広範囲な普及に伴い、失業率も緩和の方向に向かってはいるものの、最新の統計では2021年4月の速報値は6.1%と前月の3月に比べて、0.1%足踏みした状況にとどまっています。現在でも失業保険給付者は、経済の回復が進んでいる割にはそれほどには顕著な減少には至っておらず、いまも全米で1,000万人近くが給付金を毎週受け取っているものと考えられています。    

 

ご存知であるかと存じますが、バイデン大統領はこの3月に、1.9兆ドル規模の新型コロナウイルス対策のための巨額の経済支援策としての新たな連邦法であります、ARPA(American Rescue Plan Act of 2021;2021年米国救済計画法)の制定と施行に舵を切りました。  

 

本法令の中には、連邦からの9月上旬までの失業保険の増強支援も含まれており、1週間あたり、通常州政府当局から給付される失業保険給付に追加して、連邦政府から毎週$300が給付されることになりました。  

 

州から出される給付金額は州によってまちまちなのですが、全米の平均では$351/weekで、これに連邦からの$300が毎週追加されますので、1週間で$651が失業中に給付されることになります。これを時給に換算しますと$16.28、さらに年収に換算しますと、$33,852となります。何も働かずにこれだけのお金が入ってくるのであれば、まさに左団扇(うちわ)だと思う人も相当数いてもまったくおかしくありません。    

 

実際に先月4月の労働参加率は61.7%であり、これは専門家筋の予想を下回った数字となりました。コロナ禍前の労働参加率は63.6%でしたので、現在経済が回復基調にある中では、いまひとつ力強さに欠ける印象は否めません。  

 

その要因として指摘されているのは、失業保険給付が手厚すぎるのではないかという点です。確かに最低賃金近くの低賃金でオファーされる仕事に就くのであれば、家にいて失業保険給付を黙っていただいていた方がはるかに楽ですし、職場に出向いてコロナに感染するようなリスクもほぼないわけですので、誰しもそのような職場や仕事に率先して働きに出ようとは考えないわけです。そうなりますと、ビジネスのほとんどが全面的に再開していくこれからの趨勢の中で今後労働力不足は深刻なボトルネックになりかねないという懸念が顕在化してまいります。  

 

実際に飲食店関係者の中では、コロナ禍でレイオフした従業員の人たちを職場に呼び戻そうとしたところ、その呼びかけにほとんど応じてこなかったという話を耳にします。流通業界でもトラックやタンクローリーなどの長距離運転手が慢性的に不足していて、生活物資などの運搬に今後支障が出てくるのではないかと危惧されています。  

 

本来、アメリカの失業保険制度には”3つのA”というルールがあります。3つのAとは何かと申し上げますと、”Actively look for work, Available for work, and Accept work”となります。 つまり、失業保険というのは、いったん仕事にあぶれた人が次の仕事を探して再就職できるまでのあくまでも“つなぎの”一時金的給付に過ぎないわけです。  

 

ですから、仕事探しもしないし、家にこもってゲームに興じたり動画の配信をながめていたりして日長1日が過ぎていくために給付金をばら撒いているわけではないのです。仕事も探さず、仕事もせず、給付金だけが自動的に入ってくる昨今の失業保険制度の増強はコロナ禍から立ち上がろうとしているアメリカの経済復興に暗い影を落とすことになりかねません。  

 

しかも雇用主側であれば、レイオフした従業員が仕事も探さず、失業保険の給付で働いていたときと同じかそれ以上のお金が得られる、そのもともとの源泉というのは、雇用主が100%支払っている失業保険税によるところであるのです。元従業員の何人かが再就職もせず、失業保険給付で食いつないでいるとしたら、とばっちりはいずれ雇用主の方にもそのつけがまわってまいります。  

 

これは保険制度である以上、そしてその保険は使えば使うほど、財源自体は収縮する一方となりますので、雇用主に課せられる将来の失業保険税のレートに当然跳ね返ってくることになります。ですので、雇用主としては仕事探しもせず、会社からの呼び戻しのオファーにも応じようとしてこない元従業員をそのまま放置しておくのはいかがなものかと私としては考え込んでしまいます。  

 

まさにアメリカの失業保険制度の抜け道を突いたような一種の制度乱用をいつまでも放置するようであれば、将来禍根を残すことにつながりかねません。共和党が主導しているレッドステイトの一部では、ここにきて、失業保険給付金のカットを検討しているところも出てきています。手厚い失業保険をいつまでも出し続けるのではなく、再就職が決まった人にはボーナスのような一時金を支給するという案も実施に移す州も出てくるようです。  

 

アメリカは社会主義国家ではないですし、北欧諸国のような高度な社会福祉体制を実現させている国でもありませんので、やはり現状のような失業保険制度では人々の働く意欲やインセンティブを奪い取ってしまいかねません。労働力不足が原因で、アメリカ経済が再度停滞しかねない状況に陥る前に何とかして先手を打っていく必要があると思います。巨額の大盤振る舞いはワクチン接種の普及とともにそろそろ終止符を打つ頃合いにさしかかってきているのではないでしょうか。    

 

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  【執筆】

 

   

 

Pacific Dreams, Inc.

President & CEO

酒井健吉

Ken Sakai

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www.pacificdreams.org

Email : kenfsakai@pacificdreams.org

Phone: 503-783-1390  

 

【プロフィール】

信州大学卒業後、YMCAでの語学講師などを経て1987年にオレゴンに渡米。当時三菱金属(現:三菱マテリアル)が買収した米国半導体シリコン製造会社に勤務。1996年に退職後、パシフィック・ドリームズ社を立上げ、在米日系企業ならびに米国企業のクライアントを対象に人事管理コンサルティング、マーケティングと異文化コミュニケーションのノウハウを提供している。また全米各地で、毎月日系企業向けの人事セミナーを精力的に展開している。    

 

 


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